ナナ、逝く。 [ねこ と いぬ]
極めて私的かつ感傷的な記事です。
ブログとはそういうもの、とも思いますが、
お気遣いのコメントを頂くのも心苦しく、
今回はコメント欄を閉じさせていただきます。
*
おとなしいネコだった。
といって神経が細いわけではなく、ここぞというときには存在感を発揮する。
どこか泰然自若といった趣きのあるネコだった。
我が家の三匹のネコの中では体格が一番良く、
慌てず騒がず悠然と歩き、ことあらば抜群の瞬発力、
そのわりに子猫のような可愛らしい声で鳴くところが、
アンバランスな可愛さを醸し出していた。
実に猫らしいネコだったと思う。
あれは七月だったろうか、
少し痩せはじめ、それまでとは違う吐き方をするようになった。
体重5.8キロほどと、ちょっと太り気味だったので、
少しダイエットしたほうが良い、などと考えていた。
が、七月も終わる頃になるとその痩せ方が一気に進んでしまった。
それと反比例するかのようにお腹がふくらみはじめる。
八月に入り、何度も動物病院で診察を受ける。
腹水がかなり溜まっているので、レントゲンでは分かりにくいが、
腸に何らかの異常があるのは確か、
毛玉の詰まり、腸の捻れや閉塞なども考えられるが、
たぶん腫瘍ができている、ひょっとすると中皮腫かもしれない、と。
血液検査をはじめ、超音波診断や造影剤による検査など、
あれこれと調べてもらうものの、
最終的にはお腹を開いてみないと分からない、と医師の話。
ただ、このころすでに体力がかなり落ち、
手術に耐えられるかどうか微妙とのこと。
ほんのひと月前は元気だったのに。
また、手術の結果、(可能性の最も高い)腫瘍が見つかったとしても、
それを取り除いて完治する可能性はきわめて低い。
あっという間に死を迎えるかもしれないが、
それまでのあいだ、精一杯良い思い出をつくってあげるのも、
ナナちゃんには幸せなことかもしれません。
医師のその話を聞き、結局のところ手術は諦める。
その後も、溜まった腹水を取り除いてもらったり、
できるだけの応急処置を受けたが、
衰えは日に日に増すばかり、
この一週間は水もスポイトで飲ませ、食べるものは流動食、
好物の鮭などは食べる意志はあるものの、喉を上手く通らないようだ。
以前は、キッチンのカウンターなど軽く飛び上がっていたのが、
八月も半ば頃には、いったん椅子に上がりそこから登るようになった。
それも、ネコらしくなく失敗することが増えた。
階段を上れなくなったのはいつ頃だったろう。
ひょっひょっと軽快に登る姿はもう見られなくなった。
この数日は、朝目覚めて真っ先にナナを見る。
お腹が動き、呼吸のしるしを確認するとほっとする。
今朝(8日)も、もう一人では行けなくなったトイレを済ませ、
水とわずかな流動食を口にすると、
昼頃には、もうどう見ても危篤状態になってしまった。
3時20分、胸に耳を当ててみても、もう心臓の動く気配がない。
そのほんのすこし前の、苦しそうなひと吐きが最後の呼吸だったのだ。
ナナ、2003年の7月生まれ。
十年とほぼ三ヶ月の生涯。
無くなる五日前の体重は3.8キロ。
もう息をしない体になってしまったけれど、
11日の火葬までのあいだ、精一杯おまえに触れ、顔を眺めるよ、
おっとりとして、でもいつも人の顔をちゃんと見るお前の瞳は忘れない。
もう無理と
階段の下
座り込む
ひとみ虚ろに
吾を見るナナ
なきごえも
か細くなりて
横たわり
瞳わずかに
人を追うナナ
すすり呑む
流動食に
ほんとうは
鮭が欲しいと
ナナのつぶやき
骨だけの
胸に我が耳
押し当てて
聴けど音無く
ナナ永眠す