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ターナー展とHBとCANSON。 [水彩画とスケッチ]

20131220_palmtree.jpg


15日、冬晴れに誘われて久しぶりに屋外スケッチ。
使うのは三菱uniの「HB」、それと練り消しゴムを少々、
紙はCANSONのスケッチパッド。
場所は逗子マリーナの遊歩道、
コンクリートづくりの防波堤の向こうは相模湾。
立てばその海も視界に入ってくるが、
暖かい陽差しの降り注ぐこんな日は、
ゆっくりとベンチに腰掛けて、のんびりと描く。
ようするに立ったままで描く気力がないということ。

この四日前(11日)、滑り込みでターナー展を観る。
ほとんど抽象画ともいえるような『カラー・ビギニング』の数々、
これはやはりとても刺激的な作品群だった。
それから、黒をこんなに使うのはそれまでの絵画のタブーへの挑戦?
と思わずにいられない『平和ー水葬』などなど。

いっぽうでターナーという人はけっこう俗っぽさも併せ持っていたようで、
絵の舞台裏を知ると、ちょっと複雑な気持ちになる作品もある。
もちろん図抜けて上手いのだけれど。
(ちなみに、この会場の音声ガイドは良くなかった。
 制作にまつわるエピソードを知りたい人には良いが、
 肝心の作品の読み解き、これはごくごく常識的なもの。
 これならNHKの日曜美術館のほうが気が利いている。)

鬱陶しいヘッドセットをそれでも500円も払ったのだからと、
俗物根性丸出しで聞きながら、
そのガイドが触れない小さなスケッチ類が気になった。

20131221_Tarner.jpg

ガラスケース越し、薄暗い照明の下のスケッチブック。
例えば『ドレスデン、テブリッツ、プラハ』のスケッチは
一葉がほぼハガキ大ということもあって、ちょっと見づらいが、
どこか親しみの持てる柔らかなタッチに目を引かれる。
その落ち着いた、でもどことなく楽しげな筆致から、
一瞬、安野光雅さんの絵を思い出したり、
きわめて私的にはハガキサイズのスケッチブックが欲しくなったり。

それはさておき、それらは文字どおりのスケッチだから、
あくまでも作者の「覚え」である。
それでも、というかそれだからこそ、
その時その場にいたターナーの素直な目が感じられるような気がする。
時を経て薄茶けてしまったスケッチブックなのに、
たったいま描いてきたような感覚を覚えながらしばし眺めた。

大判の素描もある。
例えば『イーリー大聖堂:オクタゴンの内部』(78.2×59.3cm)。
幸いその素描の前は観客も少なく、
時間をかけてよくよく眺めてみると、
複雑な聖堂の内部、そのゴシック様式のディテールを、
遠近法に(たぶん)細心の注意を払いながら、
根気強く丹念に描いている。
その精度の高さは、画家にとって欠かせない基礎素養なのだ、
と、宣言しているようだ。

その先どんなタブローを目指すのか、
それはもちろんそこに見いだすテーマによって変貌する。
ほんとうの勝負はここからだ。
でも、先ずは素描がしっかりしなければその先もない、
と、強く感じる一枚だった。

トビカンを後にして、上野公園を歩きながら、
いま見たばかりのスケッチの残像を反芻する。
世に名高いターナーの名作も、もちろん収穫だったけれど、
はじめて見た素描は、気持ちの奥にストンと落ちた。


さて、今年はなにやかやと気の急くことが続き、
絵はあまり描けなかった。
そんなさなかのターナー展、
これは、とても参考、いや刺激になった。

洋の東西を問わず、名のある画家の素描やスケッチが、
並外れて上手いことはどの展覧会でも経験する。
でも、今回のターナーの素描には、
その技術の端っこにわずかに近づけるような、
そんな親しみやすさが感じられた、ほんの少しだけ。
それが、たとえ素人の思い違いや浅はかな見方であったとしても。


ターナー展の後に、このスケッチを描いたのに深い理由は無い。
でも、雑に描くことだけはやめよう、そう思ったことはたしかだ。
そして、来年はもう少し描こう、
スケッチもしっかり取り組んでみよう、
と、決意だけはしておく。


「ターナー展」と題しながら、一点の素描以外は載せていません。
ターナーの絵はネット上でいくらでも見られますから、
興味のある方は、どうぞ探してみてください。

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コメント 28

よしあき・ギャラリー

貴兄は、絵はもちろんのこと文章のうまさに毎回感動しています。
絵を描ける喜びは今の小生にとっての生きがいです。
子供に帰って描きたいものです。
by よしあき・ギャラリー (2013-12-22 07:07) 

mimimomo

おはようございます^^
ターナーはわたくしの好きな画家。わたくしも見に行きました。
でもやはりe-g-gさんはきっちり細部を見ていらっしゃって、こちらを読んで見に行けばよかったと思うほど^^ でも期間的に無理ですけれどね。
by mimimomo (2013-12-22 07:31) 

barbie

チャリでお散歩の時にこの堤防のところで一休みするのが好きです。
お天気が良ければ富士山がくっきり見えますね。

by barbie (2013-12-22 07:52) 

COLE

絵、良いなあ
by COLE (2013-12-22 19:20) 

luces

気持ち良い空気感が伝わります。
ターナー展に行ったのが日曜日ですごい人出だったので
ケースに入っているスケッチはじっくり見る事が出来ませんでしたが
細かく丁寧に描かれていて驚きました。
音声ガイドの解説は俗っぽさが出過ぎでしたね
by luces (2013-12-23 00:02) 

cafelamama

何かと気忙しいこの季節に
意義のある時間を過ごされたようで、とてもうらやましく思います。
by cafelamama (2013-12-23 09:54) 

e-g-g

◎よしあき・ギャラリーさん
書くのも好きですが、
ブログの恥はかき捨て、とちょっと居直り気味です。

寒いなぁとか、めんどくさいなぁ、とか、
描きはじめるまでがひと苦労なのですが、
いざ描き始めると、絵はやっぱり良いですね。

◎mimimomoさん
しっかりと見る作品はほどほどの数です、
絵を見るのも、けっこう体力仕事ですからね。
ターナー展、もっと早い時期に訪れて「二回目」を経験するべきでした。
ちょっと反省です。

◎barbieさん
そうですか、このあたりまで自転車で、、、
この数日は富士山もバッチリ、日毎に白さが増していますね。

◎COLEさん
ありがとうございます。
また描きます。

◎lucesさん
日曜日では混んでいたでしょうね〜 お疲れさまでした。
今回の展覧会に限りませんが、
スケッチも水彩も油彩も“神は細部に宿る”と強く思いました。
音声ガイド、500円返して欲しいです、、、

◎cafelamamaさん
忙しさを忘れるひととき、良い時間でした。
三時間ほどの鑑賞でしたが、充実感はありましたので。

by e-g-g (2013-12-23 19:54) 

yumi

HBの鉛筆でこんなに綺麗に描けるんですね。
わたし、この絵が好きです。とても気持ちがいいです。
鉛筆で描くとアウトラインばかり描いてしまいそうですが
e-g-gさんは面というか明暗なんですね。私もそうありたいと思うのですがなかなかできません。


by yumi (2013-12-24 23:25) 

e-g-g

◎yumiさん
明暗の描き分けが難しいところは、つい線が強くなりがちです。
この日は、できるだけそれをせずに描こうと決めていました。
明暗の差がなければ質感を!と、そのつもりはあるのですが、
木肌、コンクリート、葉、などなど、
質感の描き分けが難しいです〜。
でも、鉛筆一本のスケッチ、楽しいですね、
無心になって描けるひとときです。
by e-g-g (2013-12-25 19:16) 

旅爺さん

ご家族とクリスマスは楽しく過ごしてますか~!”
爺は清水の舞台から飛び降りたつもりで少しだけ豪華にやりましたよ。
by 旅爺さん (2013-12-25 19:52) 

旅爺さん

今年は楽しい記事を沢山有難う御座いました。
また来年も宜しくお願い致します。
by 旅爺さん (2013-12-27 11:02) 

つなみ

こんにちは(⌒∇⌒)ノ"
クリスマスが終わるともうお飾りの用意ですにゃ(=^ェ^=)
よい年末年始をお過ごしくださいませね。
by つなみ (2013-12-27 12:09) 

deko

e-g-gさんの文章をうなずきながら読んでいました。^^
素描を見ると、やっぱり上手い人は上手いんだなあ~!
と納得することがよくありますね。
音声ガイド、なんとなくめんどくさくて、まだ聞いたことがありません。
by deko (2013-12-30 17:34) 

youzi

よいお年をお迎えください(*^_^*)
by youzi (2013-12-31 16:49) 

ちゃわ犬

明けましておめでとうございます。
なかなか皆さんのところへ訪問出来ませんが
今年もよろしくお願いします。
by ちゃわ犬 (2014-01-01 15:34) 

旅爺さん

明けましておめでとうございます。
今年は更に明るく楽しい年になると良いですね。
今年も宜しくお願い致します。
by 旅爺さん (2014-01-02 09:13) 

ナツパパ

寒中お見舞い申し上げます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
by ナツパパ (2014-01-02 14:30) 

nyonyo

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

by nyonyo (2014-01-03 14:32) 

moz

ターナー展、昨年見た中では一番見がいがあったかもしれません。
点数もですが、それよりもターナーという人がそれなりに理解までは無理ですが、分かった感じがしました。書かれているように俗っぽいところがあって、展覧会に行くとターナーだけではなくて、これはグレコ展とかでもそうでしたが、なんだか親しみやすく感じたり、その反対もあるんですけれど、絵画が別のように、今まで見えていないものが見えてきたりします。
この展覧会は、まさにそんな感じでした。一枚選ぶのはとても難しくて、ターナーの色(黄色がイメージとして残りました)とデッサンの線がとても印象深いです。
そんな感じをe-g-gさんも持たれたのでしょうか?
ことしは、もっとお書きになるんですね。ブログも楽しみです。

遅れましたが、本年もどうぞよろしくお願いします。 ^^

by moz (2014-01-04 11:42) 

e-g-g

◎旅爺さん
年末から年始へ、何度もご丁寧にありがとうございます。
さて、クリスマスもお正月もあっという間に終わってしまいました。
あっ、もうすぐ普通の週が始まる、、、
と、ちょっと微妙なはや4日です。
今年も、どうぞよろしくお願いいたします。

◎つなみさん
ご丁寧にありがとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

◎dekoさん
上手い素描も良い絵も、
あまり見過ぎるのはどうなんでしょうね〜
いざ描くときは自分にとって都合の良いところだけ
思い出してます。

◎youziさん
こちらこそ、よろしくお願いいたします。

◎ちゃわ犬さん
今年も、どうぞお元気で。

◎ナツパパさん
新しい一年、良いことがたくさん訪れますように。

◎nyonyoさん
明るく楽しい一年となりますように。

◎mozさん
ターナーの絵、
これまでは、実に通り一遍の観念的情報だけで
分かったつもりでいました。

>今まで見えていないものが見えてきたり・・・
そのとおりですね。
この展覧会後は、
絵描きの生身の息づかいが少し身近に感じられます。
(俗っぽいところも、そのターナーの生き方のごく一部でしょう)
そんな印象を抱かせるターナーは、
たぶん今に生きているんですね。
年を経ると、また違った見方も見つかるかもしれません、
この先も楽しみなターナー展でした。

>一枚選ぶのはとても難しくて、
全体的にはやはりターナーのトーンは感じられますが、
個々の絵のさまざまな変化を見ていると、
まるでターナーのモザイクを見るような感じがします。
その変化というか紆余曲折?のプロセスも、
一種の親近感を抱かせるのかもしれません。
もちろん、技があっての変化ですけどね。

さて今年もmozさんの記事、楽しみにしています。
また、いろいろと教えてください。

by e-g-g (2014-01-04 17:12) 

般若坊

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
by 般若坊 (2014-01-04 19:43) 

mimimomo

こんばんは^^
ご訪問ありがとうございました♪
by mimimomo (2014-01-04 20:41) 

akipon

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
鉛筆のタッチがとても清々しく心地よいスケッチですね。
by akipon (2014-01-05 01:09) 

ponnta1351

今年も素敵な絵と文章を楽しみにしています。
いつもこちらの造詣の深さに感服しております。
by ponnta1351 (2014-01-07 07:53) 

daland

遅くなりました。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by daland (2014-01-07 22:29) 

e-g-g

◎般若坊さん
今年も美しい音楽の数々、よろしくお願いいたします。

◎mimimomoさん
“趣くままに”の記事で、多くの花の名を教えていただきました。
今年はもう少しこまめにお邪魔しますので、よろしくお願いいたします。

◎akiponさん
鉛筆画も水彩画も、もっと描きたいですね、
またご笑覧いただければ幸いです。

◎dalandさん
ご無沙汰してます。
音楽や絵や旅の話、楽しみにしています。

by e-g-g (2014-01-14 18:20) 

JF

遅くなりましたが、今年もよろしくお願いいたします。

ここ、素敵な場所ですよね。
どう切り取って描いたらいいか迷いますが。
柔らかい日差しでいいですね・・・(^^)

作家のスケッチを見ると、親しみを感じますね。
特に普段油彩などが多い場合は。

by JF (2014-01-21 06:57) 

e-g-g

◎JFさん
この場所、ご存じですか!嬉しいなぁ
人工的につくられたエリアですが、
それも半世紀も経つと、
それなりに落ち着いた景観になるのかもしれませんね。
私はこの場所のスッと抜けた広い空間が好きなのですが、
いざ描くとなると構図に迷います。

by e-g-g (2014-01-29 11:27) 

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