レオン・フライシャーのピアノ(NHK芸術劇場) [聴く・クラシック音楽]
レオン・フライシャーの演奏に接したのは、ジョージ・セル/クリーブランド管と録音したレコードが最初だった。ベートーヴェンの協奏曲全集、シューマンとグリーク、それとブラームスのピアノ協奏曲。どれもセルを聴くために求めたLPで、たまたま共演者がフライシャーだったということ。
いまではあまり聴かなくなってしまったこのLP、セル/クリーブランドのカチッと引き締まった造形美と、テンポもタッチもそれに良く合ったピアノ、その印象は強く残っている。
そのフライシャーが、右手が使えなくなるという難病に冒されたという話は、なんとなく耳に入っていた。が、そのピアニスト自身のその後に、それほどの注意を払っていたわけでもなく、私の音楽記憶からもだんだんと消えかかっていた。
金曜日(12月4日)の夜、NHKの芸術劇場のプログラムにフライシャーの名を見つけた。そして聴いた。じつに久しぶりに音楽に聴き惚れた。
81歳という年齢や、ジストニアという難病をある程度までは克服したという話、それらは実はあまり知らない方が、音楽を素直に聴くことができると思う。
では、そういった諸々に心が動かされないかというと、もちろん、そんなことはない。加えて、私の場合は、三十数年も昔のLP時代の記憶もある。素直に聴け、というほうが難しいかもしれない。
ところが、この日のテレビカメラを通して届く音楽は、そんな諸々を忘れてストレートに耳と心に響いてきた。
静かに語りかけるように始まる一曲目から最後のシューベルトまで、大仰さのない、まるで何かを慈しむかのような暖かい音楽が奏でられる。
聴き終わってから、久しぶりに音楽を聴いて幸せな気分に包まれた。演奏技術の詳しいことはわからない。が、ケレン味のない清新な表現とはこういった演奏なのだろう、と思った。実のある歳の重ねかたも、そして病との戦いも、この暖かい音楽を紡ぎ出すための過程だったのだ、と。
J.S.バッハ/ペトリ:カンタータBWV208より『羊たちは安らかに草をはみ』
J.S.バッハ:カプリッチョ『最愛の兄の旅立ちにあたって』BWV992
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ BWV903
J.S.バッハ/ブラームス編曲:シャコンヌ
シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
これが10月19日、武蔵野市民文化会館の小ホールで演奏されたプログラム。
この二、三年、新譜情報にもコンサート情報にも疎くなってしまった。この演奏もたまたまテレビで見なかったら、それまでである。来年は少しは注意してみよう、と思う。
それにしても、この晩、武蔵野市民文化会館の小ホールに居合わせた人々はとてつもなく幸せである。羨ましい
*
写真はブラームス/ピアノ協奏曲第一番のLP。レオン・フライシャー(ピアノ)、ジョージ・セル指揮/クリーブランド管弦楽団。メモを見ると1976年購入とあった。
こんにちは。酔っ払いにはもったいないような、いいテレビ番組でしたね。当方、ラーメンを食いに出かけなくてよかった。旅館のテレビで、いい気分で番組を堪能しました。セルとクリーヴランド管によるブラームスのピアノ協奏曲の録音は、ゼルキンとの盤ばかりで、このフライシャーとの録音を、ひそかに狙っております。来年、没後40年の記念に、再び国内盤が発売されることを願っています。
by narkejp (2009-12-07 19:55)
クラシック音楽にも
造詣が深いのですね。
by よしあき・ギャラリー (2009-12-08 06:08)
◎narkejpさん
私も、始まったときはちょうど良い加減に酔いが回っていて、
たぶんこのまま睡眠、、、といった感じでした。
でも、これはほんとうに良い番組でしたね。
ときおり、こんな番組が流れるので、
なかなかテレビから離れられません。
ゼルキンとのブラームス、これも良いですね、
音楽が始まった瞬間の緊張感、あれはたまりません。
それにしても没後40年ですか、、、
30年くらいまでは、かろうじて時を引っ張っている感じですが、
40年となると、もう歴史上の出来事、そんな感じもします。
◎よしあき・ギャラリーさん
いえいえ、ただ好きなだけですよ。
それに、クラシック以外もいろいろと聴きますよ、
ちょっと手当りしだいですが。
ただ、クラシックを聴き込んだおかげで、
実にいろいろなものを教えてもらいました。
バッハにも、モーツァルトにも、もちろん演奏家にも感謝です。
by e-g-g (2009-12-09 14:45)
こんにちは^^
音楽にはかなり疎いですが、聴くのは好きです。
いい音楽は、自分を豊かにしてくれるような気がします。
by mimimomo (2009-12-09 15:52)
◎mimimomoさん
若い頃にクラシックを聴き始め、
その魅力に引き込まれて以来、うん十年といったところです。
でも、ちあきなおみもいいなぁ、忌野清志郎も、、、
と、好きな音楽は多方面。
良い音楽、たくさん聴きたいですね。
by e-g-g (2009-12-09 17:59)
e-g-g さんのBlogを読んで
番組は見なかったけれど、共感できます。
音は生き方と共鳴して私たちに届くのかもしれませんね。
そして聴く側も人生を重ねるごとに 届く音色も違ってくるのでは。
私も理屈は分からないけど、聴くのは大好きです♪
by 風子 (2009-12-09 22:38)
すごいですね~、81歳で現役音楽家なんですか?
最近、同じリズムを刻むことも ? なんか付いていけてない!って思っているんですが、
音楽が人生そのものなんですね。
by こぎん (2009-12-10 08:01)
こんにちは^^
私も最近音楽会に行っていない事に気が付きました(^_^;)
アルテの会に入っていながら、なかなかチケットが手に入りません。
予約日に電話をしても繋がらなくて・・・
武蔵野市は希望者が多くて大変です(^^)
家でCDをかけることも最近少なくなっていました。
又折りにふれて聴いてみようと思います。
by いろは (2009-12-10 15:07)
◎風子さん
>音は生き方と共鳴して届く
たしかにそうですね、
若い頃に比べれば、ずいぶんと聴き方も変わったと思います。
見過ごしていた何やかやが、何かのはずみでスッと
聴こえてくることもあります。
音は鳴った瞬間から人の気持ちに訴えかけてきますね。
その功罪を意識しながら、心に響く表現を探したいものです。
◎こぎんさん
高齢の指揮者は多いですが、
体を直接的に使う演奏家にとって加齢は大問題でしょう。
技術をカバーする精神性、、、なんて良く耳にしますが、
プロとなると、そんなに簡単なことではないですよね、きっと。
この日のフライシャーさんは、ほんとに良かったですよ。
◎いろはさん
コンサート、映画、舞台、、、
エンジンがかかると連続するのですが、
いちど停止すると、そのままになりやすいですね。
見つけた時にパッと行動できるように、
気持ちの余裕と準備をしておきたいものです。
by e-g-g (2009-12-11 17:03)
この番組、録画はしたんですが、まだ見てません。
ここのところ、仕事が忙しいのとインフルエンザとのWパンチで、少々まいっております。
今夜はコンサートへ行って命の洗濯をしてまいりましたが、この番組を早く見たいです。
by のすけの母 (2009-12-12 00:02)
神の手のピアニストっているのですね!絵を描く方にも....。
by 愚理庵 (2009-12-13 05:15)
◎のすけの母さん
やはりコンサートは良いですよ、録画はごゆっくりと。
滋味に溢れたピアノです。
インフルエンザの季節ですけれど、新型じゃないですよね?
どうぞ、お大事に。
◎愚理庵さん
コメント、ありがとうございます。
表現技術、それも人に訴えかける力を持つ、
これはやはり凄いことですね。
by e-g-g (2009-12-16 16:55)
◎xml_xslさん
◎Krauseさん
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◎甘茶さん
niceを、ありがとうございます。
by e-g-g (2009-12-16 16:57)
◎ガマさん さん
◎mitsuさん
◎ミモザさん
◎くらいふさん
◎へー八郎さん
niceを、ありがとうございます。
by e-g-g (2009-12-25 20:57)
古い記事ですが,私もこの番組について記事を書いていました。
http://classical-guitar.blog.so-net.ne.jp/2009-12-22-1
片手のシャコンヌにすっかり魅了され,余り好きでなかったこの曲をこの後ギターで弾くことになりました。
by Enrique (2017-02-21 13:49)
◎Enriqueさん
わざわざ古い記事をご覧いただきありがとうございます。
このTVを見てからもう7年も経つのですね!
感覚的には三〜四年前かと思っていました。
「フライシャーの語り」のほうも、じっくりと拝読させていただきます。
by e-g-g (2017-02-26 18:50)