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ベルリンフィルの7時間 [聴く・クラシック音楽]

 20日の祝日、晴れていれば、桜はまだかいな、と、きっと外へ出るだろう。しかしながら朝からの雨。おかげで「夢の音楽堂〜ベルリン・フィルのすべて〜」を、ほとんど見てしまった、いや聴いてしまった。7時間もあっという間だった。
  
 たまに細切れ映像を目にするくらいだったフルトヴェングラーの指揮ぶりは、思いのほか端正でキチッとしたものだった。以下、オオトロの味わいのラトル、切迫した緊張感の漂うザンデルリンク、ちょっと近寄りがたい真摯さのヴァント、病み上がりの痛々しさを感じながらも音楽のエネルギーは失わないアバド、そのヴェルディのレクイエム、そして得意なチャイコフスキーだけど、それでもこんなに良かった?と再認識した小澤征爾。

 ゲストの土屋邦雄氏も良かった。1957年から2001年までベルリンフィルに在籍していたヴィオラ奏者である。その土屋氏が入団した1957年はフルトヴェングラーの死後、まだ5年目のことという。ようするにフルトヴェングラー時代の団員が、まだまだ数多く残っている中に入ったわけだ。歴史の彼方もちゃんと繋がっている、とあらたな認識。
 カラヤンのブラームスの演奏を見終わっての「映像の途中でフルートの一番と二番が入れ替わっていた。あれはいけない!ああいうことをしてはいけない」というコメント。映像の記録に拘ったカラヤンのやり方(良いテイクをつなぐ編集)への遠慮のない非難は、やはり当事者の、それも極めつけのヴェテランの物言いだろう、説得力があった。インサイダーの話はとかくつまらないものが多いが、この土屋氏の話は面白く、また興味深かった。

 ゴールウェイ、シェレンベルガー、そして安永徹といった名手が次から次へと現れるのも、興味深く見た。シェレンベルガーは、ちょうど前日に放映されたN響の定期演奏会でモーツァルトを振っていたのを見ていたので、なんとも親近感が湧いた。他にも一流のソリストがぞろぞろいる。ほんとうに凄いオーケストラなのだ、ベルリン・フィルは。

 どの演奏も聴きどころ満載だったが、強いてあげればヴァントのブルックナー、いやザンデルリンクのショスタコーヴィチが白眉か。ちょっと昔風の濃厚フレンチ・フルコースの中で、苦みも渋みも含めて真の音楽の姿を感じさせてくれる良い演奏だったと思う。

 残念だったのはカラヤンのブラームスの第4交響曲が第四楽章だけだったこと。きっと管理のきついカラヤン映像故の部分放送だろう。編集の力が大きいことを考慮しても、それでもこの演奏の緊張感と音の充実度は並みではない。これまで、しっかりと聴いたことのないカラヤンを少しはきちんと聴いてみよう、そんな思いもする。

 この放送の前に、三日前に買ったボールトの振るエルガーのCDを聴いた。ベルリンフィルの分厚くゴージャスな音と比べるとなんとも渋い音質、これもしかし滋味があってとても良い。このCDは1970年代前半の録音である。ということはカラヤンも絶頂のころだ(この日の放送のカラヤンのブラームスは1973年の記録)。世界には実に様々な音楽が鳴り響いていたという、ごく当然のことに思いがいたる。

14日の記事とダブるけれど、今日の演奏一覧。
 ・ムソルグスキー・ラヴェル/展覧会の絵
  ラトル指揮(2007年)
 ・R・シュトラウス/
  ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
  フルトヴェングラー指揮(1950年)
 ・ブラームス/交響曲第4番/第4楽章
  カラヤン指揮 (1973年)
 ・ショスタコーヴィチ:交響曲第8番
  ザンデルリンク指揮 (1997年)
 ・ヴェルディ/レクイエム/リベラ・メ
  アバド指揮 (2001年)
 ・ブルックナー/交響曲第9番
  ヴァント指揮 (1998年)
 ・チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」
  小沢征爾指揮 (2008年)
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コメント 13

いろは

こんばんは^^
20日は凄い雨と風でしたね。
最近クラシック音楽はご無沙汰です(^_^;)
地域のサークルに入っているのですが(音楽会の)
なかなか券が取れなくて・・・(-_-;)
アイロンがけの時にCDを聴くぐらいです。
気分によってワルツを聴いたり交響曲を聴いたりしています。
by いろは (2008-03-21 17:21) 

のすけの母

こんばんは。
ここのところ公私ともに忙しく、録画してもたぶんじっくり見る時間がないと思われたので、もう録画しませんでした。
でも、こちらの文章を拝見して……やっぱり録画だけもしておくべきだったと後悔しております。
by のすけの母 (2008-03-21 19:38) 

coco

こんばんは♪

私も途中まで観ていました。
人間フルトヴェングラー、人間カラヤンというのが感じられ、また歴史的な流れの中でのベルリンフィルという偉大なオーケストラの生き様が興味深く、私もついつい...
夕方から出かけなければいけなかったので、残念ながら小澤征爾さんの『悲愴』は聴けなかったのですが。
いい番組でしたし、勉強になりました♪
好田タクトさんも面白かったです。
by coco (2008-03-22 00:34) 

e-g-g

◎いろはさん
コンサートには、気軽に出かけられると良いですね。
私もこの一年ほどは、ちょっと遠ざかってます。
行きだすとクセになるんですけれど、、、
アイロンがけの音楽、アイロンが良く滑るんでしょうね。

◎のすけの母さん
私も、とりあえず録画して、
結局、見ない、聴かないものがたくさんありますよ。
これはもう縁がなかったと思ってさっと諦めます。
いろんなソースに出会えるチャンスが増えている、
ということもありますしね、

◎cocoさん
最後の悲壮を除いても、
ご馳走たっぷりだったと思いますよ。
とくにショスタコーヴィチとブルックナーは、
凄かったですね。
好田タクトという人は始めてみましたが、
いろんな指揮者の特徴を、よく掴んでました。
感心です。

ところでdalandさんのブログの「平原綾香さんの~」で
ブラームスの2番に触れられてますよね。
この曲は私も春の定番です。
季節は秋ですけれど、11月の1日に
ちょっと記事を載せてます。
よろしければどうぞ。
by e-g-g (2008-03-23 20:12) 

e-g-g

◎カフェオランジュさん

◎xml_xslさん

◎masaさん

◎POPさん

◎ハイマンさん

naice、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-03-23 20:17) 

daland

こんばんは。
凄い演奏です。
バラエティに富んでいて7時間もあっという間でしょうね。
ザンデルリンク見たかった。
BS-hi ならではですね。
最近 NHK は音楽番組(特にクラシック)を BS-hi に集中させてます。
BS-hi の特徴を考えれば当然ですが、ずるい。
BS-hi が欲しい...

e-g-g さんもブラームスの2番が春の定番ですか。
さっそく聴いてみないといけません。

by daland (2008-03-24 22:51) 

e-g-g

◎dalandさん
我が家はケーブルテレビなので、
気が付いたらBS-hiも見られる、ということなんですね。
なので、あまり有り難味を感じませんが、
これ、番組表だけ見せられたら、ちょっとね~
そのBS-hi、来月はカラヤン特集もあるようですよ。

ブラームスの2番、ほんとに良い音楽ですよね。
今日は、セルのCDを聴きました。
仕事の合間だったのであまりまじめに聴いてませんが、
曲も演奏も、やっぱり凄い!このひと言です。
by e-g-g (2008-03-24 23:07) 

coco

こんばんは。

11月1日の記事、拝見しました。
いつもながら素敵な文章...(*^_^*)

私はこのブラームスの2番をカラヤンとポッチさんから紹介された(ポッチさん、本当にありがとうございます!!)ジュリーニの2枚以外にもう1枚もしかしてうもれている?(笑)のがあります。で、出てこないっ(^_^;)
カラヤンもこの2番とあと4番を大変気に入っていたと聞きますが、私は春の陽射しの中、のほほ~~んとしていた時に耳に流れてきたのはジュリーニの演奏の音でした。カラヤンも名演ですが、生意気ですが、私にはジュリーニのほうが格調高い温かみを感じ、私にとっての春のブラームスの2番のイメージなんです。聴けば聴くほどのめり込んでいく恋のようです。
e-g-gさんのオススメも聴いてみたいです。
どちらかというと神経質なブラームスから、こんなにのびやかにこの上ない崇高ともいえる曲が生まれたというのがまた興味深くもあります。魅力的な男性です。

先日のベルフィルの番組、本当に凄いご馳走でした。
私が第九を歌い始めたのは『ベルリンの壁崩壊』の翌年のドイツでの経験が原点なのですが、又現地に行ってみたくなりました。
長々とすみません<m(__)m>

by coco (2008-03-25 19:37) 

e-g-g

◎cocoさん
ブラームスの記事、お読みいただきありがとうございます。

ジュリーニはウィーンフィルの演奏ですよね、
私の持っているジュリーにはフィルハーモニア盤、
VPO盤もやはり聴いてみたいですね。

ブラームスは一見無骨で頑固、そして神経質な印象です。
これは、晩年の髭もじゃの肖像が影響していると思いますが、
ま、実に人間的というか、我々凡人にも分かりやすく、
そして親しみの持てる人柄と思います。

ジュリーニは、そういった人柄や作風との
相性が良いのでは?と思います。
奇をてらわず自然体の書のような趣は、
フィルハーモニア盤からもそれとなく感じ取れます。

ベルリンに行かれたのですね、
ドイツ、そしてにヨーロッパの人々にとって、
ベルリンの壁は何だったのか?
現地に赴いてはじめて掴める感覚も多いでしょうね、
また行かれると良いですね。

ところでポッチさん、どうされたでしょうね、
ちょっと長めの休憩とは思いますが、、、
by e-g-g (2008-03-26 14:50) 

coco

こんばんは。

ポッチさんに紹介いただいたジュリーニのCDはロサンゼルス・フィル・ハーモニー管弦楽団のものです。このCDの中に入っているシューマンの《マンフレッド》序曲も格別です♪

>ま、実に人間的というか、我々凡人にも分かりやすく、そして親しみの持てる人柄と思います

そして偉大でロマンチックな感じがします。200年以上経っても私たちの心を揺さぶるなんて罪な人です(*^_^*)
彼のドイツレクイエムは難しそうでまだ歌ったことがありません...いつか挑戦したいと思っていますが...

本当にポッチさん、どうされたんでしょうね。
私も再開を心待ちにしているんですが...
by coco (2008-03-26 19:00) 

e-g-g

◎cocoさん
あっ、失礼しました。ロスフィルのほうですね。

ところでブラームスの亡くなったのは1897年ですから、
まだ110年とちょっと前のことですね。
日本でいえば明治30年、
私の年代からすれば二代前の時代ですから、
以外に近い感じもします。
ちなみにこの年には画家の東郷青児や
それと私の好きな指揮者のジョージ・セルが生まれています。

ブラームスの心と体に染み込んだロマンティシズムは、
もちろん19世紀末の香り。
それでも、ときおり匂うそのその残り香は、
ヨーロッパから遠く離れたこの地にも届いてきます。
音楽って素晴らしいですね。
by e-g-g (2008-03-27 11:24) 

e-g-g

◎Krauseさん
お立ち寄り、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-03-27 11:25) 

e-g-g

◎きぃ*さん

◎奥津軽さん

◎mamireさん

nice、ありがとうございます
by e-g-g (2008-04-08 16:38) 

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