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秋に聴く、英国紳士のブラームス。 [聴く・クラシック音楽]

毎年、春を迎えるとブラームスの交響曲第2番を聴きたくなる。
ゆったりと波打つ旋律が、春のうららかな陽差しに良く似合う。
私にとってはヴィヴァルディの「春」よりも、季節を知らせてくれる曲。
その第二番、秋にも ふと聴きたくなる。



陽の影が弱々しく長く伸びる頃、
吹く風は少し冷気を含んで、
でもポケットに手を突っ込むほどでもなく。
そんなときに、
たとえば第二楽章のメロディーが頭の中で鳴る。

このシンフォニー、もちろんセルの振ったものも聴く。
ブラームスのシンコペーションが心地よく響く。
でも、たぶん、いちばん聴いているのは、
エイドリアン・ボールトがロンドン・フィルを振った
このCDかもしれない。
棚には他に、クレンペラー、ケルテス、アンセルメ、
マゼール、ジュリーニ(古いフィルハーモニア盤)、、、

なのに、結局いつも引っぱり出すのは、このボールト盤。
 
 だからといって、他の指揮者の演奏が悪いというのではない。
 みんな良い。
 しかし、ほんの少しリズムがつんのめったり、
 響きが重すぎたり、いろいろ小さな違いがあるのだ。
 この「小さな違い」を針小棒大かつ拡大比較するのが、
 クラシック音楽好きの悲しい習性なのだ。。。

このCDは、ジャケット買いだった。
ジャケットのボールトの表情が決め手である。
小さい写真だけれど、こんなに良い爺さんが、
そんなに変なブラームスを振るわけはないだろう。
オーケストラも安心、録音はちょっと古いけれど(1971年)、
ま、きっと落ち着いて聴けるものだろう、と。

 ちなみに、ボールトはイギリス出身の指揮者。
 派手さもなく、あまり騒がれなかったけれど、
 ホルストの「惑星」の初演者でもある。
 それに「Sir」の称号を持つ英国紳士なのだ。
 Sir がどんな人格に付くのか、良くは知らないけれど。

期待は裏切られなかった。

ブラームスの命は「うたう」と思う。
歌う、唄う、謳う、謡う、、、
その全部をひっくるめて「うたう」。
ベートーヴェンにも、モーツァルトにも「うた」はある。
ヘンデルの「うた」もいいなぁ。
バッハだって、忘れられない旋律がごまんとある。
いやいや、およそ名を残している音楽家の作品に
「うたう」ことは不可欠である。

それにブラームスだって「うたう」ことばかりではない。
堅牢な構築物を見るような構成の力というか妙もある。
それと、なんといっても「うた」を
活き活きと浮かび上がらせるリズムの処理、
まったく惚れ惚れするリズム感だ。
そしてヴァリエイションという言葉の意味が
手にとるように分かる変奏の技術。
これらの融合がブラームスの魅力。
(と、言い切って良いのか?)

この様々な要素に支えられた「うた」が、
ボールトの演奏からは、実に無理なくきこえる。

ブラームスの旋律は人の呼吸のようなものである。
晴れ晴れとした気分のときの、大きな深呼吸、
寂しいといって吐く深いため息。
きわめて感覚的な書き方だけど、
このあたりの表現はベートーヴェンにも勝る。

ともかく、妙に前のめりになったり、
大袈裟に振りかぶったり、
ここをこんな風に聴かせてやろう、
そんな意気込みが強くなると、
この呼吸が押しつけがましくきこえてしまう。
そしてブラームスの形も崩れる。

ボールトの演奏を聴いていると、
ブラームスの呼吸が素直に聞こえてくる。
そう信じられる演奏である。
それは、人生をしっかりと歩いた指揮者のブラームス。
暖かいブラームス。


ある批評で“バレンボイムのブラームスが、
20世紀型ブラームスの集大成”とあった。
これは、いずれ聴いてみよう。
気になりながら、まだ聴かずにいるヴァントの盤もある。
それからジュリーニのウィーンフィル盤も、、、

それ以上に、ボールトとはまったく異次元の
ブラームスを聴かせてくれたハーディングに
早く2番の演奏が出ないものか。

また、ブラームス症候群が始まるか?

■CDは
" BRAHMS Four Symphonics SIR ADRIAN BOULT"
という3枚組のセット。
Disky Classics(Licensed from EMI)
BX-705422・BX-705432・BX-705442

1番から4番の交響曲と、
悲劇的序曲、アルトラプソディ、ハイドン変奏曲が入っている。
オーケストラはロンドン・フィルとロンドン交響楽団(3番の交響曲のみ)
*このボックセットを買ったのは1999年。
 現在はEMIクラシックスから分売されているようだ。
 


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のすけの母

さすがe-g-gさん!!
こんなに熱く語るe-g-gさんは、なかなかお目にかかれないのでは!?
本当にブラームスがお好きなんですね。
私は……嫌いじゃありません。
ブラームスの交響曲は、割と聴く方です。
ただ、ブラームスは、いつだってしかめっ面していて、つけいる隙がない感じなのです。
苦手な教科の、でも尊敬している先生のような存在です。
by のすけの母 (2007-11-01 21:51) 

kita

前掲の「秋色」も意表をついた写真で楽しませていただきましたが、今回もブラ
ームスのニ長調とは。しかもエードリアン・ボールトのCD、恐れ入りました。
いわれてみるとなるほどという感じで慧眼に敬意を表します。ボールトは地味
ですが、いい指揮者だと思います。英国紳士の典型のような指揮者で、「惑
星」などハッタリがなくまっとうな演奏でした。

残念ながら気にはなっていましたが、ボールトのブラームスは聴いたことがあり
ません。e-g-gさんの文章に引き込まれ聴いてみたくなりました。
なお、不思議なことにe-g-gさんの所有されるLP、CDとはヴァントを除き、まっ
たくダブっていないのも驚きでした。ちなみに私の所有は、トスカニーニ(NBC、
フィルハーモニア)、モントゥー(サンフランシスコ、ロンドン響)、バルビローリ
(ウィーン)、ハイティンク(ボストン)、小澤(SKO)で、一番好きなのはモンtゥ
ー(LSO)とバルビローリです。いずれもオケもしくは指揮者がイギリスですね。
その意味ではボールトと共通項があるのでしょうか。
by kita (2007-11-01 22:02) 

e-g-g

◎のすけの母さん  こんばんは
あっ、熱いですか〜
少し冷ましましょうか。

しかめ面のブラームスは、
きっとヒゲもじゃの晩年の肖像のせいでしょう。
若い頃は、色白でナイーブな青年の印象でしょ?
ま、いずれにしてもいつも明るくて元気!
という感じではありませんけれど。

実は、ぜひ書きたい曲がひとつあるのですよ。
クラリネット五重奏曲ロ短調 Op.115。
いつか書きたいなぁ、と思いながら、
また熱くなりそうで、ずっと二の足を踏んでます。

そのうち いずれ

◎kitaさん こんばんは
いやいや慧眼などと云われますと、、、これは困りました。

ダブっていないのは、ほんとうに面白いですね。
kitaさん所有のものと私のを合わせると、
ニ長調のいちおうのカタログができますね。
(モントゥとバルビローリは、聴きたいですね〜
 あとハイティンクも気になります)

最近、またイギリスの演奏家が元気なようですね。
ラトル、ハーディング、、、
それと、ノリントンは王立音楽大学で
ボールトに学んでいたようです。
もちろん、ひとことでは言えないと思いますが、
イギリスの音楽の流れのようなものは、たぶんあるのでしょうね。
by e-g-g (2007-11-02 00:08) 

ポッチ

e-g-g さん、こんばんは!
あー、そのカタログ、私のこと忘れてませんか?なんて(笑)
いやぁ、この季節に第2番!やられました。今、モーレツに聴きたくなっています。
ボールドのこのセットは去年たしか1700円くらいの驚愕の価格で発売されていて、けっこう試聴したんですが、買いませんでした(内容の問題ではなく、お財布の問題デス)。今、非常に後悔しています(笑)。

ブラームスの魅力、まさしく同感です。あのカッチリした複雑な構成の中から立ち上る「うた」。気づけば、構成そのものが「うた」なんですよね。あの微妙なバランス、絶妙な配合がたまりません。

第2番、是非ともハーディングに指揮してもらいたいですねー。ブラームスのリズム、現代っ子のハーディングはどう処理するのかな。第3番同様に第4楽章なんか気持ち良さそう。それをまた裏切ってくれても良し!ですね。

ブラームスになると、どうもコメント長くなりがちな私ですが、最後にひとつ。
OP.115!びっくりしました。最近よく聴いていたので。どのCDかはナイショです(笑)。記事にするつもりは今のところありませんので、e-g-g さんの記事楽しみにしてます♪
by ポッチ (2007-11-02 02:41) 

響

かずかすの楽曲を何度も聴かれての記事で
全然判らない僕でもブラームスさんの良さが伝わってきました。
by (2007-11-02 11:46) 

e-g-g

◎ポッチさん
そうそう、カタログ一緒につくりましょ。
ボールトのブラームスは、若い頃に聴いたら、
も少しメリハリ効かないの?と思ったかもしれません。
それが歳を重ねてからは、
一見地味に見えて、何もやっていないような
そういう作風が響くんですよね、ココロに。←無理な同意

Op.115、頭の中では、ずっと鳴ってるんです。
でも、なかなか聴くチャンスが訪れない。
これは物理的な環境ではなくて心理的なものです。
ついこの間も、頭の中のOp.115のレコードが
CDになって並んでいたんですね、タワーに。
で、手にはとったものの買えなかったんです。
なにしろ別格中の別格の曲ですから。
 
by e-g-g (2007-11-02 16:45) 

e-g-g

◎響さん
こんな記事まで読んでもらって、アリガトウです。
ブラームスっていう人は、
ロマンティックを絵に描いたような人です。
秋には向いてますよ。
 
by e-g-g (2007-11-02 16:47) 

としゆき

こんばんは、このCD持ってます!
聴きましたがいい演奏ですね。じわっと沁みこむようなブラームスですね。
個人的には、ジュリーニ/ウィーン・フィルを一番よく聴きますでしょうか。
by としゆき (2007-11-02 21:34) 

e-g-g

◎としゆきさん こんばんは
ジュリーニとウィーン・フィルの盤は未聴なんです。
評判も良いようですね。
これを聴くと、また、感想も変わるかもしれません。

ボールトの演奏は、滋味が豊かですね。
by e-g-g (2007-11-02 22:08) 

kita

e-g-gさん こんにちは。
ブラームスのクラリネット五重奏曲は、モーツァルトのクラリネット協奏曲と双璧
の名曲と思いますが、e-g-gさん同様、なんともいえない寂寥感が重くのしか
かり、滅多にCDには手を伸ばしません。手元には、ハロルド・ライトとボストン
響のメンバによるもののみがあるだけです。しかもライトはこの録音(93年5月)
の3ケ月後死去しました。またLPではカール・ライスターとアマデウスSQのも
のだけを所有していました。

しかし、頭の中では第二楽章や第四楽章がよく鳴り響きます。
e-g-gさんの心情はまったくよく共感できます。

ぜひ、ブログに書いていただくことを希望いたします。同様にホ短調の第四交
響曲についても。
by kita (2007-11-03 12:55) 

daland

こんばんは。
うわぁ。ボールトのブラームスですね!
私も最初見つけた時は、こんなのあるんだと手を出してしまいました。
(廉価版というのも決め手でした)
それっきりになっていましたが、e-g-gさんのエントリーを拝見して引っ張り出して聴いて見ました。
あまり細かいところにこだわらず曲の核心をぐっとつかみ出しているような演奏です。そうおっしゃる通りの深呼吸をしているような気持ちです。
第3楽章のオーボエの表情いいですね。またそれに絡まる木管たち。
こういうところが、ボールト盤の素敵なとこの一つだと思います。
やはりイギリスのオケのブラームスは、特別なんでしょうか。
サヴァリッシュの新しい全集もロンドン・フィルですし、ハイティンクも新しいのはロンドン響で録音してます。共に滋味溢れる演奏です。
by daland (2007-11-03 21:21) 

e-g-g

◎xml_xsl さん お立ち寄り、ありがとうございます。

◎カフェオランジュさん いつも、ありがとうございます。
 
by e-g-g (2007-11-04 23:57) 

e-g-g

◎kitaさん 再度のコメント、ありがとうございます。
Op.115にはあまりにも語るべきことが多く、
私のような音楽の素人には、
さて、何からはじめようか?
と、なかなかテーマすら定まりません。
たしかに心の一番奥に響いた実感は、
紛れもなくあるのですから、
そのひとつひとつを解きほぐせば良いのですけれど。
もう少し発酵する時間を持ちたいと思っています。

第四交響曲、これも避けては通れない音楽ですね。
お題が、重いです。。。

◎dalandさん
おやおや、お付き合いさせてしまったようですね。
第三楽章のオーボエ、いいですね〜
いつ聴いても、ほっとします。

そういえば、サヴァリッシュもいましたね。
これもロンドンフィルでしたか。
う〜ん、また候補がひとつ増えた、、、
by e-g-g (2007-11-05 12:37) 

mozart1889

ボールトのブラームスの交響曲全集、良かったですね。
いわば男のブラームス、あまりメソメソしないのがイイです。
あっさりしているようで、実は味わい深い演奏でした。
ロンドン・フィルもロンドン響も好演と思います。
by mozart1889 (2007-11-22 05:35) 

e-g-g

◎mozart1889さん
ボールトのブラームスは、買った当初は
なんだかぬるいナァ、と思いました。
でも、聴くほどに馴染んできますね。
しっかり織られたツィードのような感触が、
いまはとても気に入ってます。
コメントを、ありがとうございました。
by e-g-g (2007-11-22 23:31) 

ももこ

e-g-gさん、蒸し暑い日が続くようになりましたが
お変わりございませんか。
今日は音楽の志向を解析(笑)
素人の私の出る幕じゃありませんでした(恥)
pcしながらただ音が鳴ってるといいとばかりの日々をすごしていましたが
しばらくコンサートにも出向いてなかったし、
いい音楽聴いてリフレッシュしたいです、
山歩きする前の私もタワ―レコード、石丸電気でCDかいまくっていました
たぶん500枚くらいはありますよ、来る日も来る日も同じもの聴きますが
青春時代ははTEACに勤めていました。
明日朝ソファに座ってでっかいスピーカーで(笑)ブラームスの交響曲第2番
聴きますよ、今から探さなきゃ(^_-)
by ももこ (2010-07-08 23:19) 

e-g-g

◎ももこさん
いやぁ、私の音楽志向をすっかりと解析されました~
たくさん読んでいただき、ありがとうございます。
お蔭様で、私も久しぶりに読み返し、
己の独善に、ちょっと反省したりしてます。

ところでTEACにいらしたのですか!
2トラサンパチ(でしたっけ?)のオープンリールのデッキ、
欲しかったですね~
カセットデッキでも良い製品、出してましたね。
とても懐かしいです。

いま、ふと気づいたのですが、
我が家のタンノイのスピーカー、
これはTEACが日本の総代理店でしたね、
今でも扱っているのでしょうか?

このところ気ぜわしい日々が続いていまして、
絵もなかなか描けず、それとブラームスともご無沙汰です。
すこし落ち着いてブラームスの「雨の歌」でも聴きたいものです。

by e-g-g (2010-07-09 20:30) 

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