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田園快速、ジンマンのベートーヴェン。 [聴く・クラシック音楽]

デイヴィッド・ジンマンの田園(ベートーヴェン)を聴く。
1999年の発売当初、「モダン楽器によるベーレンライター原典版世界初録音」というのが話題になったCD。(録音は1997年)
クラシックの曲には大元となる楽譜に、いくつかの版の存在するものがある。
ま、いろんな事情があってそうなるわけだが、
とにかく、田園のスコアはひとつ!ではないということ。

この世界初録音は、CDのジャケットにも印刷されている。

だから、みんな信じる。ワタシも信じる。
これまで、聴いた演奏と違った楽器の扱いや、
あれっ!こんなところにこんな音が!
といった驚きは、全部「ベーレンライター原典版云々」のためと思う。
ところが、これが実は厳密には原典どおりではなく、
指揮者のジンマン氏の独自の判断で加えられた音が多いのだそうである。

このあたりの詳しい事情は、しつこく追求したわけでもないのでわからない。たぶん「ベーレンライター版に基づく新しい解釈」といったあたりだろう。それと、ここから先の、どこがどう違うという点については、私には、それをきちんと語る知識も無いのであしからず。

ま、でも聴けばエッ!?と思えるところは多々ある。

実際の演奏はどうか。
まず、オーケストラの編成がさほど大きくないためか、
各パートの音が良く聞こえる。見通しの良い演奏と思う。
(これは録音方法の影響もたぶんにあるはずだけど)
曖昧模糊として、でもそれが何やら幽玄の世界を醸しだす、
そういったちょっと時代がかった演奏とは正反対。
そして、とにかく前へ進む力が大きい。
“ちょっと、そんなに急がないで”
とオジサンのゆっくり志向などはお構いなしに、
とにかくずんずん進む。
ポルシェ(運転したことはないけれど)で走る田園。
(と、書くとかつてのカラヤンの田園もそう言われていた)

そんな塩梅だから、古典的オーソドックスな田園、
たとえばワルターとか、ベームとか、いやカラヤンも、
それと私にとってのレファレンスのようなセルの演奏も、
そういったこれまで聴き馴染んできた演奏とは、
テンポも質感もずいぶんと違う印象。
これが近代的なのかなあ、と思う。

ずっと、この田園を聴き続けるかどうかはわからないけれど、
この軽快で快適に走る音楽は、確かに現代の田園である、
と思わせてくれる。


ベートーヴェンがこの曲を作ったのは1808年、
それから二百年近くも経つのに、新しい解釈がどんどん出てくる。
それを手軽に(このCDは廉価版だからなおさらのこと)聴けるのは、
やはり嬉しいことである。
(さらには、総譜もネットで簡単に見ることができる。これでは音楽の友社もたいへんなワケだ)

* *
東京の郊外を東急田園都市線という私鉄が通っている。
その、とある駅にかれこれ20年以上住んでいた。
かつて『金曜日の妻たちへ』の舞台になったその街は、
絵に描いたような東京のベッドタウンだった。
住み始めた頃は、たしかに田園イメージも少しはあり、
その静かな佇まいは気に入っていた。
ただ、後半はどんどん増える人口とクルマの洪水にギブアップ。
これじゃ、なんのための郊外生活なのか?と思い、都心へ引っ越した。

ジンマンの田園を聴いて、ふと足早に開発された
この擬似的“田園都市”を思い出した。

チューリヒ・トーンハレ管弦楽団/指揮:デイヴィッド・ジンマン
ARTE NOVA 74321 49695 2
*CDに入っているもう一曲は、同じベートーヴェンの交響曲第5番「運命」


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コメント 4

ポッチ

eguchi さん、こんにちは。
「ポルシェで走る田園」ですか、フフ。ポルシェには乗りたし、景色は見たし・・・うーむ。
200年近くも経てば、田園風景(解釈)も変わって当然ですけど、昔ながらの田園風景に心動かされるということは、人間はたいして変わらないということなのかもしれませんね。
これからは「田園」を聴くとき、どんな乗り物かは気にしてしまいそうです(笑)。
by ポッチ (2007-08-31 15:20) 

kita

eguchi様

別のブログにお邪魔していますkitaです。
大変楽しく読ませていただきました。ジンマンのベートーヴェンは発売当初さっ
そく購入しました。全集でたしか1枚あたり数百円だったと記憶しています。
当時、価格破壊という言葉がはやっており、これはそのものずばりと思ったもの
です。

新ベーレンラ0ター版ですが、オイレンブルグ版等と実際に比較したわけではあ
りませんが、とにかく新鮮で、特にティンパニーの多用が目立ちます。また、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルの実演でも感じましたが、少編成(8
型)のため、すべての音がよく聞こえます。
まったく違う音楽ですが、エルヴェ・ニケのヘンデル「王宮の花火」でも派手な
ティンパニーのカデンツァにはびっくりしました。ティンパニーの多用は最近の
傾向でしょうか?

しかし新鮮なことこの上なく、いまのところ、新ベーレンライラー版以外のベート
ーヴェンには食指が動きません。

引き続き、興味深いブログの更新をお願いします。(音楽以外の話題も興味津々です)
by kita (2007-08-31 16:38) 

e-g-g

◎ポッチさん ど〜も
吉田秀和氏が、ジョージ・セルの田園を
“オート三輪で田舎のでこぼこ道を走るよう”
と、愛情を込めて評していました。
      ↑
どの本に書かれていたのか調べる気力がないので、たぶんこんな感じ。
で、ワタシはこのオート三輪の田園、好きです。

田園への憧れは、近代人の宿命!
と分かったようなこと書いてますが、でもなんで惹かれるんでしょうね。
by e-g-g (2007-09-01 01:01) 

e-g-g

◎kitaさん ご訪問、ありがとうございます。
このARTE NOVAレーベルは、安いこと、
それとなかなか意欲的な新録音も多く、
ショップで見つけるのが楽しみですね。
ヴァイオリンのベンジャミン・シュミットなど、
このレーベルのものをまったくの直感で買って、
たいへん満足したものもあります。
最近は、どうなのでしょう?

私はkitaさんほど詳しくありませんので、
ほんとうの勘所は良く分からないことも多いのです。
ただ、ティンパニの目立ち方は、やはり感じますね。
歯切れ良くリズムを刻みたい、という現れなのでしょうか?
指揮者も演奏家も、どんどん若返ってますからね、
当然、ポップスやロック、その影響も受けるでしょうし。
いや、ひょっとするとベートーヴェンやヘンデルの時代でも
実はティンパニは明快に鳴っていた、と見るべきなのでしょうか?
このあたり、素人にはちょっと手に負えないことですが、
興味はあります。

あちらこちらをキョロキョロしてばかりのブログです。
独断、早とちり、勘違いも、多々あるかとは思いますが、
ひとまず、よろしくお願いいたします。
by e-g-g (2007-09-01 01:18) 

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