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K 467 [聴く・クラシック音楽]

 人の話にすぐ影響される。今日はmozart1889さんのブログ「クラシック音楽のひとりごと」に刺激され、久しぶりにモーツァルトのピアノ協奏曲第21番K.467を聴いた。(もちろん仕事の合間にね)たぶん、今年はじめて。聴きながら表現のコントラストについて考えた。



 とくに第二楽章。そのメロディーはシンプル、ピアノを弾く人にとっては簡単になぞれるものだろう。そして、優しく破綻のない音の歩みは、まるで暖かな春の日を浴びながらうたた寝をしているような感じだ。
 なのに、曲が進むにつれて感じる、スーッと引き込まれていくような切迫感は、いったいなんだろう?語り口は静かで穏やかなのに、しばらく聞いていると、その重さというか核心にハッと気付く、そんな人の話し方に似ている。

 この曲は、大騒ぎもなく、妙な仕掛けもアクロバティックな聴かせも無い。しごく淡々としている。曲全体のダイナミクスは、ごく狭い範囲だ。音階だって、とんでもない飛躍は無い。ピアノ自体のフォルテもピアニッシモも、限られた範囲の中での相対的なもの。オーケストラにしても、大音量で鳴るわけでもなく、ピアノが紡ぎ出す科白を優しく支えることがいちばんの仕事。他にもいろいろあるけれど、それとこういう話をするときに、もう少し音楽のことが分かっていれば、ちゃんと話せるのに、とは思うが、ま、仕方ない。

 ようするに、モーツァルトのこの曲は、表現のコントラストという点では、かなり弱いものである。なのに、曲全体の力を感じるのはなぜか?

 そう、隣りあったり、あるグループの中で関係し合う要素は、その関係を支えるコントラストが微差であっても、ときに大きなダイナミズムを生む、という典型のような作品なのだ。そんな音楽を(たぶん)さらっと作ってしまうモーツァルトはやはりすごい。と、今さら言うまでもないことだけど。

 色彩でいえば、たとえば補色関係(赤と緑とか)の配色は、コントラストを付けやすい。カタチの大小も、その大きさの差を広げるほどコントラストが強くなる。と、ここまではまぁ簡単だ。ただしかし、コントラストの付け方は奥が深い。たとえば、隣りあった色相の、あるいは明度や彩度のきわめて近い関係、そんなデリケートな組み合わせでもコントラストは生まれる。この微差のコントラストをコントロールできると、グラフィックデザインの巾もグンと広がる。若い頃は、とにかくメリハリの効いた、言ってみればコントラストのきついものを作っていた。あるときから、それだけでは表現の半分しかできていないと気がついた。才能のある人は、こんなことははじめから自明と思うけれど、ま、これは自分の若気の至りというもの。
 モーツァルトのこの曲(他にもいろいろあるけれど)を聴いていると、なにも大声で怒鳴るだけが伝え方のすべてではないよ、コントラストをそんなに強くしなくてもダイナミックなものはできるんだよ、そうこんな風にね、と言われているような気がする。これは、ものづくり、表現すること、その要諦なのだ。

    

 この曲は1967年のスウェーデン映画『短くも美しく燃え』に使われていたし、あちらこちらで聴いた方も多いと思う。映画の方は、とにかく悲劇を絵に描いたようなラブストーリー。そのドラマを盛り上げるには、これ以上は無いというほどぴったりと合っていた。もっとも、この印象の強さは、その後この曲を聴くときにちょっと邪魔にもなるけれど。

■mozart1889さんのブログ「クラシック音楽のひとりごと」は
http://www.doblog.com/weblog/myblog/41717/2623099#2623099
■CDはロベール・カサドシュ(pf)/ジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団のCD。録音は1961年。


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e-g-g

◎ xml_xsl さん お立ち寄り、ありがとうございます。
by e-g-g (2007-05-27 20:52) 

tak

ピアノ協奏曲第21番、第二楽章
はきいたことがあります。

♪ミドソミラー

って感じで始まる曲ですよね。
さわやかな感じがいいです。
by tak (2007-05-27 22:05) 

e-g-g

◎ tak さん こんばんは
さわやかで、優しくて、でも芯があって、良い曲です。全楽章をとおして聴くと、また違った趣もあります。
by e-g-g (2007-05-27 23:41) 

mamire

朝七時からLaLaチャンネルでモーツァルトの特集をしていますね。
私も、若いときは、モーツァルトより、ショパンやラフマニノフでした・・・

モーツァルトは、単調な曲が多いようにも見えるけれど、幻想曲ニ短調など、心が揺さぶられるような曲もありますね。
音量だけではなく、速さとか、音色とか、いくらでも表現の変化ができるということでしょうか。
これは、デザインにもいえるのですね。
今の私には、緑に赤はちょっときつすぎます。
余談ですが、
久しぶりに、昔のピアノピースを取り出してみたら、「40円」何ていうのがありました。
by mamire (2007-05-29 20:58) 

e-g-g

◎ m a m i r e さん
幻想曲ニ短調は魂の奥底を抉られるような、他に類のない音楽ですね。
デザインに限らず、視覚的な領域と音楽のそれは重なり合うものが多いと思います。作曲もグラフィカルな構成も、同じコンポジションですから。

40円のピアノピース!?
by e-g-g (2007-05-30 00:14) 

ポッチ

eguchi さん、こんにちは。
2ヵ月遅れのコメントです。

>それとこういう話をするときに、もう少し音楽のことが分かっていれば、ちゃんと話せるのに、

いやいや、この曲の魅力が伝わってきますよ。eguchi さんの記事を見て、この曲を聴いてみたいと思った方もいるはず。
カサドシュも映画も未体験なのですが、ぜひとも体験したくなりました。特に、カサドシュ。ジャケットのシブイ表情がとてもナイスです。
by ポッチ (2007-07-30 14:02) 

e-g-g

◎ポッチさん どーもどーも
実はですね〜
あれだけ聞いていたカサドシュとセルのコンチェルト、
もう少し潤いがあってもいいかな、
なんて最近、少し思います。
いや、端正でそれはそれは完成度の高い演奏なのですけどね。
by e-g-g (2007-07-30 19:59) 

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