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読めない取扱説明書 [日々のデザイン]

 i Pod Shuffle を購入。ついに世界7000万ユーザーの一人になってしまった。曲のありかをさがすのに一苦労という難点はあるものの、音楽を持ち運ぶ道具という点では、現状ではひとつの究極のカタチとも思える。
が、注文もある。それは“読めない取扱説明書”。

 なにしろ説明文が小さすぎて読めないのである。文字のサイズは、たぶん6ポイント以下ではないかと思う。もちろん製品そのものが小さいから、その梱包サイズも小さい。必然的に取扱説明書を含めて他の諸々(必要情報を一枚にまとめたクイックリファレンスなど)のサイズも小さい。この絶対的な小ささは、ある程度はいたしかたのないものと思う。

 ただ、それにしても読めないというのは問題である。ワタシは若い頃から視力には自信があり、検査でも2.0はごく自然に見えた時代もあった。しかし、老眼の進行は早く、40才目前にはもうその進行が始まっていた。老眼鏡を使うようになるのは50代に入ってからだが、この老化現象?とは上手く付き合っていくしかない。あまり見栄を張らず老眼鏡をきちんと使っていけばよい。仕事でもプライベートでも、もう老眼鏡無しにはやっていけない。ま、それはそれでいい。

 問題は、老眼鏡を使っているにもかかわらず、この説明書の文字が見えにくいことである。例えば、この説明書にスペースの余裕が無いのなら仕方がないかもしれない。しかし、画像を見ても分かるように「余白」は充分にある。なぜ、このスペースをもっと上手く使わないのか?パッと見た目のレイアウトの雰囲気を優先させたのならこれは言語道断である。

 それにさらに追い打ちをかけているのがライトグリーンの文字色である。これも読みにくさを助長している。世の中には、様々な視覚的ウィークポイントを持っている人々がいる。「見える人」と「見えない人」だけではないのである。実際にはその中間に、さまざまな問題を抱えている人がいる。高齢になれば、私のように老眼、あるいは高齢特有の疾病も問題になってくる。そういった視覚弱者は i Pod Shuffle なんか使わない!と Apple 社は決めつけているのだろうか?

 説明文が読めなくても、あるいは読まなくても、優れたインターフェースによって、すぐに使えるようになります。という反論もあると思う。しかし、それは問題のすり替えである。かりに文章無しでも分かるようにするなら、より完成度の高い「絵のみによる説明」が必要になる。また、人は論理的な把握によって道具を理解していくという面も併せ持っている。その際に、文字、言葉、文章はやはり重要な働きを持っている。

 私は食品のパッケージをデザインする場合に、正面のデザインと同じくらいに裏面にも注意を払う。もちろん条例や様々な規制で「最低の文字サイズ」が決まっているものもある。ただ、だからといって規制内に納まっていればよい!というものではないのである。
 これは、実際の店頭でもよく見かける光景だが、気になる商品を見つけた場合に、客は手にとって商品を裏返し、その表示も吟味する。子供には、出来るだけ添加物の少ないものを、さてカロリーはどれくらい? あるいは作り方は?とか、買い手のニーズは様々である。それに応えるすべての情報ではないが、それでも相当量の情報が裏面には入っている。そして、その情報は出来うる限り「読めて・分かりやすく」なければならない。だから「読めればいいだろう!」という態度でデザインするのはデザイナーの資質としては失格なのである。限られたスペース、溢れるほどの情報量を相手に、その制約の中で少しでも読みやすく分かりやすいデザインをする。これは、地味な仕事ではあるがデザイナーにとって、とても大事な仕事なのである。

 こんなことまで考えざるを得ないほど、この i Pod Shuffleの説明書の不親切さはヒドイ。いったいどういうつもりで、これほど不親切きわまりない説明書をつくったのか?そこに関わったデザイナーに理由を問いただしたい。またそのデザインを決裁した Apple 社のデザインにたいしての考え方も聞いてみたい。
 そんなに目くじらを立てて追求するような問題ではないかもしれないが、でも、やはりデザインは極めて社会的な行為なのである。

 最近、怒ってばかりいるなぁ・・・


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コメント 16

mio

このライトグリーンは読みづらいですね
なぜこの色にしたのか・・・
私はお年寄り相手の仕事をしているので、文章を作成する際の文字サイズは最低でも12ポイント、それ以下の文字を使っていた場合は内容関係なしで却下します。色についても黒、もしくは背景の反対色か、視認性の良いものを使用するように職員に指示します
説明書とは読んでもらえて初めて役をなす、これはひどいですね
i pod Shuffleのすっきりしたデザインや機能が台無し
これ、私も惹かれていたんですが、移動は車がメインな私はカーステで十分ですとあっさり大蔵省から却下されました(笑9
by mio (2007-01-12 22:11) 

e-g-g

◎mioさん
ユニバーサルデザインのお手本です、これからも12ポイント以下の文字はどんどん却下してください。
そんなことにも注意がいかないような、ニッポンのデザイン界のお粗末さに暗澹たる気分です、、、
でも、i Pod Shuffle ええですよ〜
by e-g-g (2007-01-12 22:37) 

こんばんは!説明書を読む前にまず使いますが、読まないと性能を引き出せませんよね。
今はDVDが付いていて、映像でなんでも学ぶ・・・
文字を読まなくなると想像力が欠如しますが、難しい説明書も作者のセンスを考えてしまいます。
by (2007-01-12 22:54) 

e-g-g

◎月光さん
説明書を読まなくても使いこなせるのは、ひとつの理想と思います。そういった意味で、完成度の高いのは自転車ですよね。正しいペダルの踏み方なんて説明がなくても、自ずと分かりますから。でも、すべての道具が自転車のように熟成はしていませんから、やはり的確な説明は必要と思います。
それも言葉の想像力を上手く使ったものが。
by e-g-g (2007-01-12 23:16) 

Montego-Blue

こんばんは。
あのMacでもこのような文字サイズなんですね。
Webはある程度任意にサイズを換えられますが、紙ものは確かに固定ですよね。白地に緑は見えにくいですね。
でも、ipodは使い方シンプルでよいですよね~。
by Montego-Blue (2007-01-12 23:17) 

e-g-g

◎Montego-Blueさん
Mac も昔の、そうですね〜「漢字TALK」の時代のマニュアルは、読みやすさへの配慮が見られました。(使っている書体が神経質でしたし、見てくれとは別にコンピューターそのものを理解することの難しさは別にして)
道具としての i Pod は良くできていると思います。それだけに、この取扱説明書の不親切さが余計に気になります
by e-g-g (2007-01-12 23:33) 

kom

これは何かの流用なのかな。紙の取説ってないがしろにされているものなんですね・・・。なんとなく「どうせ読む人いないだろう」っていうのが伝わってきてしまいます。マイナスイメージですね。
iTunesは大変愛用しております。今も聴いてます。
iPodはないんですが・・・。
by kom (2007-01-13 00:22) 

東雲

おはようございます。
今朝はかなり冷え込んだような気がします。

“見え難い文字”に関しては 老眼鏡を必要とするようになって
特に強く不満を感じる様になりました。
私もEGUCHIさんと同じ様に 昔から視力が良くて 1.5~2.0でしたので
やっぱり近くのものが見え難くなる時期が早く 私の場合まだ50才前にもかかわらず 2年前から必要になりました。
特に 新聞や辞書の文字、そしてEGUCHIさんも書かれているように お買い物に行って 買おうとする商品の裏側の説明書きを読む為に 必ずバッグにその老眼鏡を入れて行かなくてはならない状態です。
そして、読み難いと言えば 保険会社の あの約款!です!!!
開くのさえ億劫になるほど 小さい文字がずらりと並んでいて 何か必要に迫られない限り目を通す事は無いように思います。
小さい文字を見ると 反射的に避ける様になって来ているこの頃...^_^;
by 東雲 (2007-01-13 07:00) 

e-g-g

◎komaさん おはようございます
取説無しでは済まないから、いちおうつくる。こういう姿勢では良い取説は出来ませんね。ほんとうは、買ってくれた顧客のブランドロイヤリティを、さらに高めるための格好のツールなんですけどね。そこに気づいているメーカーって、意外に少ないものです。買ってくれた客には、もう用はない、というのではあまりにモッタイナイ話です。まして、デジタル系の機器は回転も早いわけで「次」の購買へ向けての大事な布石にもなるわけですから。
i Pod Shuffle は、1GBのメモリーにそこそこのイヤーフォンが付いて、それで9800円は、確かに安いもの、とへんな理屈で買ってしまいました。
by e-g-g (2007-01-13 10:56) 

e-g-g

◎東雲さん おはようございます
風邪ひきで病院に行くときに、きっと待つだろうと、文庫本を持っていったのに、携帯用のメガネを忘れたり、それが文字の小さい昔の新潮文庫なんかだと、ほんとに悔しいです。
携帯用にはイタリアのNANNINIというメーカーの。ペタッとたためるモノを使っています。イタリア製とは思えないほど、日本人の知恵的なメガネです。
約款の小さな文字はとどまるところを知りませんね。たぶん、ちゃんと読めるようにするには紙のサイズをいまの3倍くらいにしないと無理でしょうね。でも、そうやって、読まれるようになると困る会社もあるかもしれません。←ちょっとひねくれすぎ
by e-g-g (2007-01-13 11:04) 

umi_umi

これ、皆さん言ってますけど文字の色が問題ですよね(汗
黒なら、もっと読みやすいのに。
更に大きな字ならもっと良いのに。
それにしても、いいものGETしましたね♪
あたしも欲しいとは思うんです、ツーリングのお供に。
走ってる時は聴きませんが、休憩の時とかあったらいいかな、と。
by umi_umi (2007-01-13 15:07) 

e-g-g

◎海さん
そーなんです、色の問題は大きいですね。こういった印刷物ももちろんパソコンでつくりますが、きっとモニター画面では「良く見えて」いたのでしょう。
i Pod が初めて出たときから、なんとなく気になっていて、でも、イラナイ!と思ってたんですけどね、、、なぜか、、、
by e-g-g (2007-01-13 20:54) 

YASH

ipodナノもぺらっとしたのが一枚きり。触ってるうちに分かります、みたいな感じでした。
日本人の作ったものとはエライ違いだなぁなんて妻と二人、妙なところで感心したものです。

目的を果たしていないデザインは、デザインになっていませんね。
by YASH (2007-01-13 23:09) 

e-g-g

◎YASHさん 日本人がつくっていないから、かどうかは良く分かりませんが、基本のスタンスはやはりインターナショナルでしょうね。
でも、危うさも感じます。ファンに支えられてこそのメーカーですが、その支持にちょっと甘えすぎている気配も、、、このあたりコミュニケーションはどんな企業でもいちばん神経を使うところと思います。一歩間違えると、その不遜さ、傲慢さへの反発も強く出ますから。

ほんとうは、「触っているうちに分かります」っていうのは理想的ですよね。ただ、難しいナァと思うのは、それだけがモノを理解する方法ではない、ということかと思います。
by e-g-g (2007-01-13 23:45) 

mykie

こんばんは。
Appleはこういうところには結構気を遣う企業だと思っていたのですが、あらら、という感じですね。
小さくまとめる方がスタイルとしてかっこ良いから、それを優先してしまった結果なのかな…。
対岸の火事としないよう、肝に銘じます。
by mykie (2007-01-14 03:09) 

e-g-g

◎mykieさん いつもありがとうございます。
もう20年も前でしょうか、初めて Mac を見たときには、その洗練されたインターフェースに驚いたものです。その感動?が忘れられずに Mac ファンになった人も多いのではないでしょうか。ま、我々は仕事上、使わざるを得ないわけでもありますが・・・
いまでも、グラフィカルを含めてそのインターフェースは Win よりも優れていると思います。まったく Win のそれは、いつまで経っても慣れません。
でも、 Mac とWinの差もだんだんと縮まってきました。ほんとうにユーザーフレンドリーなものだけが生き残っていく、と思います。
対岸の火事、ほんとに心しておかないと、ですね。
by e-g-g (2007-01-14 12:53) 

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