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再生音楽のロストジェネレーション [聴く・クラシック音楽]

 私は、レコードマニアではない。でも、溜まったレコード盤を捨てるには忍びない。だから、ときどき引っぱり出して聴く。それにしても、なぜあんなに簡単にレコードからCDに変わってしまったのだろう?と思う。

 20代の半ばから、クラシックを聴き始めて溜まったLPが300枚ほどある。他にモダンジャズや、ポップス等々、かき集めるとやはり相当の枚数になる。

 1982年にCDが世に出て、もちろんはじめのうちは疑心暗鬼。しかし新しいテクノロジーの魔力は強く、私も世間一般並にCDへ移っていく。そしてLPはだんだんと聴かなくなった。新しい技術の新しい音は、こんなものか!と半分感心しつつ、半分落胆しつつ、その間にも波に呑み込まれていった。(ここでは、触れないが、初期のCDの音質は、いま聴き返すとほんとうにひどいものが多い。当時のCDのすべてが悪い音質ではないが、でも、これは新技術による一時的な、しかし大きな後退である)

 そんな波に揉まれながらも捨てられなかったレコードプレーヤーを今でも使っている。もう使い初めてから30年も経った。途中、回転数の安定しないモーターを2度ほど交換し、いまはなだめすかしながらの日々である。オーディオ雑誌の評価を頼りに、いくつかのカートリッジも揃えた。さすがに経年劣化もあるので、すべてが最良のコンディションではないが、それぞれ固有の音色を持ち、今でも品の良い音で鳴ってくれる。

 そのプレーヤーで、今日はシベリウスのシンフォニーを聴いた。各地で大雪という。正月明けの日曜日、東京でも降ればシベリウスを聴くには格好とおもったが、その期待は外れた。しかし、ふくよかなサウンドは蘇る。そして、LPを聴くたびにいつも頭をよぎることを今日も考えた。それは、CDは果たして私たちに豊かな音楽世界をもたらしたのか?ということ。(たんにCDとしているが、もちろんそれ以降の新しい技術も含めての話である)

 新しいテクノロジーを全否定する気など毛頭ない。私だって、素晴らしい演奏、見事な録音のCDを大切に聴いている。
 ただしかし、その新しいテクノロジーは、私たちの音楽体験をどれほど豊かなものにしたか、そのことも考えてしまう。LPからCDへ、さらにはポータブルオーディオへ、その転換をあまりにも性急に求めすぎたのではないかとも思う。これは、たとえば単純にLP時代の音源を最新のデジタル技術でCD化すれば済むという問題でもない。また、スタイルだけを追い求めてレトロ感覚の装置を据えればよいというものでもない。ま、気分は落ち着くかもしれないが、そんなことでは本質的な解決にはほど遠い。

 問題は、私たちがこの20数年の間に、より成熟した聴き手になれたかどうかにある。きわめて個人的な感性に根ざした領域でもあるが、同時にそこに大きく影響しているテクノロジーの影も大きいと思う。そして、この聴き手とテクノロジーの微妙な関係は、どうみてもこの20数年間はテクノロジー主導で動いてきたと思う。これは再生音楽のロストジェネレーションの問題である。

 そんなことを頭の隅に置きながら、ことしは少し気合いを入れて音楽と付き合ってみようと思う。


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barbie

クラシックは落ち着いた気分になりますね。
シベリウス・・・難しいです(^_^;
by barbie (2007-01-08 01:33) 

e-g-g

◎barbieさん コメントをありがとうございます。
シベリウス、白髭神社前の琵琶湖にも、それからマキノ高原の風景にも、すごく合うと思いますよ。こんど、i Pod Shuffle に入れて行かれては。
by e-g-g (2007-01-08 01:45) 

umi_umi

レコードプレーヤー、懐かしい!
父が音楽が好きで、影響であたしもクラシック~ロックまで
音楽ならなんでも聴いちゃいます♪
実家には、父のレコードとあたしのレコード、まだあったかも。
今はいろんな面で技術発達、早いし便利ですよね。
・・・ついて行けてないかも(笑
by umi_umi (2007-01-08 11:01) 

のすけの母

こんにちは。
どっちが使い勝手がいいかといえば、断然CDです。
でも、CDが当たり前となって、音がデジタル化されて、持ち運びがた易くなるに伴って、「今この時、音楽が聴ける幸せ」を感じ難くなっているように思えます。

私の場合は、学生時代までがレコード時代でして、貧乏学生にレコードをあまた買える経済力もなく、今家にあるレコードは少ないのですが、お金のないときに買った1枚1枚に強い思い入れがあって、決して捨てることはできません!!
プレーヤーさえあれば……。
いつかプレーヤーもそろえたいと思っています。
by のすけの母 (2007-01-08 12:27) 

カズ−

私も先日クラシックのレコードを知り合いから100枚位
いただき、暇をみては聴いています。
私はどちらかというと、何かをしながら聞くタイプですが、
レコードの音は好きです。
街に音楽を持ち出せるようになってから、音楽をじっくり
聴くというより、とにかく簡単に持ち出して聞ける方向に
メーカーがひたすら走ってきた気がします。
これからどうなるんでしょうね。
by カズ− (2007-01-08 18:05) 

e-g-g

◎海さん コメントをありがとうございます。
時を経てからお父様の集められたレコードを聴くと、また、違ったお父様の一面も発見できるかもしれませんね。良い記念と思います。クラシックもロックも、分け隔てなく、素直に聴きたいものですね。

◎のすけの母さん こんにちは
音楽に限らず、飢餓状態で見たり聴いたりするものが、たぶん圧倒的に心に響くと思います。それとは逆に創造には浴びるほどの体験が及ぼす影響もあるわけで、そのあたりのバランスは難しいですね。両方の環境を持てるのがいちばん良いとは思いますが。
ただ、意識的に飢餓状態を作り出すことも、必要かと思います。再会したときの喜びは大きいですから。
昔、レコードは高かったですよ。若いときに求めたレコードは貴重です。成長の証でもありますし。
私は二十歳前後の頃、モダンジャズにのめり込んでいました。レコードなどとても買えず、一日中薄暗いジャズ喫茶で聴いてました。余裕が出来てから、そのとき聴いたレコードを買いましたが、まったく別物に聞こえました。音楽ってムズカシイです

◎カズーさん こんばんは
そのメーカーの走ってきた道、メーカーに言わせれば消費者のニーズに応えて、ということになりますね。ただ、やはり常に「他の選択肢」も用意すべきと思います。
簡単に持ち出せるようになって、音楽は急激に消費財になったと思います。消費のどこが悪い?と言われそうですが、文化的なるものは、それだけでは済まない奥行きも持っていると思うのですが。
by e-g-g (2007-01-08 19:55) 

東雲

EGUCHIさん こんばんは!
レコードプレーヤー、私も時々懐かしく思い出しながら昔よく聴いた曲を
聴いたりしています。 我が家のは 主人が独身時代に使っていたもの
なので と~っても古くて おまけに 全く手入れをしていないので
音もプチプチ雑音が入ったりするのですが 
でも 何故か好きなんですよね。
昨年の4月27日の日記にそのプレーヤーを載せています^^
それにしても EGUCHIさんは 本当にクラッシックがお好きなんですね♪
by 東雲 (2007-01-09 20:06) 

e-g-g

◎東雲さん こんばんは!
プレーヤー、拝見しました。パイオニア製でしょうか?レコードも大切にされているようですね。
プチプチ雑音ですが、プレーヤーのせいというよりレコードの溝に付いて取れなくなった小さなゴミや汚れと思います。で、究極の解決策をお教えします。
1・用意するもの:木工ボンド、湯飲みかコップ、爪楊枝、レコード
2・木工ボンドをレコード盤に直に塗る。指の腹を使って丁寧に塗ります。それもけちけちしないで思いっきり塗る。
3・そのまま湯飲みの上に乗せ乾くまでじっと待つ
4・乾いて固まったボンドを丁寧に剥がす。この時に金属製の針などを使うのは御法度です。爪楊枝で慎重にめくり剥がしていきます。

これで、新品に蘇ります。レコードに付いた汚れやチリはクリーナーで一生懸命に拭っても、却って溝の中に押し込めるだけですから効果に限界があります。
ちょっと勇気のいる方法ですから、これは捨てても構わないというレコードでお試しになってからにすると良いと思います。とにかく、ビックリするほど効果があります。(要するにレコードの洗顔パックですね)
これでも駄目な場合は、さらに究極の方法として、薄めた中性洗剤と水でじゃぶじゃぶ洗うという方法がありますが、乾くのに思いのほか時間がかかりますが、効果は大きいです。ただし。こちらの方が精神衛生上はもっとヒヤヒヤします。

え〜 本題
クラシックは好きです。というより生きていくための糧です(ちょっと大袈裟すぎて恥ずかしいですけど)。でも、それ以外の音楽も良く聴きますよ。ジャズも、演歌も、民謡も、それからCDショップで置き場に困るようなワールドミュージックとか、とにかく心にピッと響くものは何でも好きです。イージーリスニングと J POP とラップだけはちょっと遠慮してますけど。
by e-g-g (2007-01-09 22:37) 

mozart1889

EGUCHIさん、初めまして。mozart1889と申します。
初期のCDは、今聴くと本当に音が悪いです。デジタル録音に慣れていなかったり、マスタリングがおかしかったりしたんでしょうか。
LPの音の柔らかさ・自然さは、CDに慣れた後聴き返すと、とても新鮮でした。
最近またアナログ熱が復活してゴソゴソと古いLPを取り出しては、ターンテーブルに載せ、ブラシで軽くクルッとクリーニング。冬場は静電気が盛大ですね。我が家ではTRIOのKP880Dを使用しています。まだ元気に回ってくれます。カートリッジはDENONの103、やや太めのトロっとした音です。あまり細かなところにこだわらず大らかに鳴ってくれます。
LPを捨てられずに持っていただけのことではあるんですが、学生時代に必死の思いで購ったLPを、一枚一枚必死で聴いていた時の方が音楽に対して真剣であったなぁと反省しています。
by mozart1889 (2007-01-10 05:32) 

e-g-g

◎mozart1889さん お寄りいただきましてありがとうございます。
そうですねやはりアナログ熱でしょうか、私もLPの棚を見る機会が増えています。こんなの、いつ買った?というものもけっこうあったりしますが。
KP880Dはパッと思い浮かびませんが、たぶん写真でも見れば思い出すでしょうね。昔のオーディオの、たとえば広告などはかなり目に焼き付いていますし。103は良く覚えています。使うチャンスがありませんでしたが、一世を風靡したカートリッジですよね。
私は長いあいだ、SHUREのV 15 Type-3、Type-4を使っていました。解像度よりもトータルのフワッと感と暖かさが欲しいときに、オルトフォンを加えていました。いま、現役でキチンと鳴るのは、いちばん使用時間の少なかった、このオルトフォンです。
プレーヤー(YAMAHA YP-800)はさすがに古色蒼然としてきましたが、でも30年使い込んでもそれなりに回っていますので、これはとことん使い切ってみよう思っています。
数少ないLPのときの方が真剣に聴いていた、、、同感です。どうしてでしょうかね、聴く側の感受性の問題でしょうか?
初期CDの音の悪さにつきましては、昨年11月30日に私のブログで「八つ当たり記事」を載せています。お口汚しとは思いますが、もし宜しければお読みになってみてください。
by e-g-g (2007-01-10 11:02) 

(SWR)

IIIとIV うらやましいです。 レコードのクリ
ーニングは素直にバランスウォッシャーを使
用中。
by (SWR) (2007-01-11 02:11) 

東雲

おはようございます!
色々ご丁寧に教えて頂きましてありがとうございます。
取り敢えず どうでもいいレコードを探して試してみたいと思います。^^
by 東雲 (2007-01-11 08:27) 

e-g-g

(SWR)さん
IIIもIV も、長いこと休憩していたので針の調子が今ひとつ、こんど針だけ交換するつもり。でも、針に付いた汚れを取れば復活するかな?
バランスウォッシャーは使ったこと無いけれど良さそう。ずっと"WATTS 'PAROSTATIK' DISC PREENER"を使っていましたよ。使う前にクリーナーのベルベットにフッと息を吹きかけて、ほんの少し湿らせて使うタイプ。とにかく優しく!これがけっこうムズカシイ。そういえば、レコード盤の上をくるくる回って埃をとる掃除機タイプのものもあったなぁ。
by e-g-g (2007-01-11 10:46) 

e-g-g

◎東雲さん 私の方法はかなり荒療治です。
(SWR)さんも書かれている“バランスウォッシャー(REIKA製)”も効果があると思います。私の時代には無かったようで、まだ使ったことはないのですが。
by e-g-g (2007-01-11 10:53) 

伍玖肆

こちらにお初です

7年前に購入したレコードプレーヤーと2年前に購入したエディロールR-1を繋いで
やっとLPレコードのWAVEファイル化(CD音質)を始めました
 LPレコードはポリエチレンだかの袋に所々密着してしまってて
 ゴミが溶け込んでました
そういう問題箇所を綿棒とアルコホルで除去してから
36年前に購入したプリーナーで拭き
音飛びするかどうかモニターしながら録音です
 一般的なレコードクリーナーだと取っ手が固い樹脂なので
 手元を誤るとレコードに傷を付けてしまいますが
 プリーナーは転がっても大丈夫で安心感があります
当時の雑誌にはレコードを水洗いする方法が紹介されてたものです
じゅうぶん乾かさないといけないので面倒ですが
[594]
by 伍玖肆 (2007-02-13 23:03) 

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