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フリッチャイの『運命』 [聴く・クラシック音楽]

 渋谷のタワーレコードでいろいろ試聴していたら、とんでもないCDに出会った。フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィルハーモニーのベートーヴェンの『運命』と第7番。とにかくテンポが遅いのだ。



 とにかく遅い!もう尋常ではない遅さである。感覚的には普通の?テンポの倍くらいに感じる。一瞬、試聴機が壊れているのではないかと思ったほどである。
 ちなみに第一楽章のタイミングを見ると9分9秒とある。もっとも良く聴くセル盤は7分40秒、カラヤンは7分18秒、ジンマンが6分49秒、ミュンシュにいたっては6分2秒。とまぁ、全部の比較をしてもしょうがないのでこのへんでやめておくが、とにかくこの演奏タイムを見ただけでも遅い。
 そして、その遅さ以上に驚くのが底の見えないような暗さ。大袈裟ではなく、試聴機で聴いたときは胸が苦しくなるのを感じた。鳥肌が立つというのとはちょっと違う。動悸が激しくなって息苦しくなる感じである。
 それにしても、同じベートーヴェンのスコアからどうすれば、こんなにも重く暗い音が出てくるのか?これは、心身の調子が悪いときは聴いてはならない演奏である。

 ここまでの印象はショップで聴いた第一楽章と第4楽章のもの。家では、まだ全曲を聴いていない。いつ聴こうか思案中である。聴くタイミングを間違えると、なにやら大変なことになりそうなので。

 クラシックはもう30年以上も聴いているけれど、もちろん知らない演奏は山ほどある。CDを片っ端から買い集めるわけでもなく、また演奏史的に重要とされる録音をきちっと押さえているわけでもない。
 また、若い頃にセルの指揮に惚れ込んでしまったこともあって、私のレコードとCDの集積はかなり偏っている。

 だから演奏史の上では、エポックになっているかもしれないフリッチャイの演奏も、今日はじめて聴いた。他にも“30年も聴いていれば絶対に聴いているでしょう”といわれるようなモノをけっこう聴いていない。人が聴いているものはいちおう聴かなければ!といった強迫観念などとは、とうの昔にサヨナラしている。
 ま、でも長年聴いていると耳のほうもすれてくる。少しくらい毛色の変わった演奏にもそうは驚かない。が、今日は久しぶりに大袈裟ではなく心拍数が上がった。


 このCDにはベートーヴェンの第7番も入っている。最近はクラシックブームらしい。人気のある第7番のCDを求めて、このフリッチャイ盤を買う人もいるかもしれない。7番はまだ聴いていないので何とも言えないけれど、再生ボタンを押した途端に、この暗く重い、そして気の遠くなるような遅さの『運命』の冒頭が鳴り出したら、どんな顔をするのだろう?
 それが拙いとは思わない。確実に何パーセントかの人は、きっと魂を揺さぶられるだろうから。ただ、大方の人は驚いて二度と聴かなくなってしまうのでは、とも思う。

*フェレンツ・フリッチャイ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 ベートーヴェン 交響曲第5番・第7番 *1960/61年録音
 ユニバーサルミュージック UCCG 3430


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コメント 10

kom

同じ楽譜でもそんなに変わるんですか・・。
確かに音楽って精神状態によって違って聞こえることがあるんですが、逆もありえるんですねえ。ちょっと怖いな。
by kom (2007-03-18 21:48) 

のすけの母

もともと重苦しさのある「運命」が、そんなに暗いとは。
重苦しく、かなりゆっくりなテンポを頭の中で想像して鳴らしてみました。

なんだか、クスっときました。
私って不謹慎ですね。
by のすけの母 (2007-03-18 23:41) 

e-g-g

◎komaさん こんにちは
楽譜は曖昧な約束事しか書いていない(書けない)ので、いろんなスタイルの演奏が生まれる、これは実に面白いです。で、同じ曲のCDがどんどん増えていきます。コマッタものです。
by e-g-g (2007-03-19 11:30) 

e-g-g

◎のすけの母さん こんにちは
このテンポで、全体のテンションを保つのは並大抵の技量じゃ無理でしょうね。早いところ全曲を通して聴いて、そのあたりを確かめたいです。
「運命」は、決して暗く重いだけの音楽でもありませんよね。そのあたりをどんな風に表現しているかも興味津々です。
by e-g-g (2007-03-19 11:35) 

mio

私の友人はジミ・ヘンドリクスの「パープルヘイズ」という曲を録音の違うのをすべて一本のテープにおさめて聞いていましたが、クラッシックでもアレンジの違いでいろいろあるんですね
by mio (2007-03-19 21:19) 

e-g-g

◎mioさん
クラシックの場合はアレンジではありませんです。あくまでも原典(楽譜)の解釈の違いですね。(ときどき指揮者が独自の解釈をして、楽譜には無い音を加えたりしますが、それはいちおう編曲とは言ってないですね。)
たとえば「運命」の出だしの“タタタター”(正確には最初のタの前に休止符があるのですが、ちょっとややこしいので今は割愛)。この最後の“ター”にはフェルマータが付いてます。これは「程良く伸ばす」という指示ですけれど、これほど曖昧な指示って無いですよね。(他にもクレッシェンドも、ラルゴも、とにかく音楽記号は曖昧)
なので、どのくらい伸ばすかは指揮者によってまちまちです。指揮者は、己の解釈あるいは信念に基づいて、その長さを決めるわけですが、そうなると当然みんな違ってきます。それも、たんに気分的に適当に決めるわけではなく、曲全体の構成やら何やら、そういったことから必然として決められる長さ(と、いちおうなってます)、となるわけですね。で、その違いが実に面白い!とこうなるわけです。ちと、理屈っぽい話になりましたけど、実に面白い世界ですよ〜
by e-g-g (2007-03-19 23:37) 

ポッチ

eguchi さん、こちらにもお邪魔してます。
(mio さんへのコメントを読んで)まさに、その通りですよねー。自分にとって理想的な解釈に出会うのも、自分が想像さえしていなかった解釈に出会うのも楽しいですよね。
フリッチャイの『運命』、私もフリッチャイの顔を参考に(?)のすけの母さんに倣って頭の中で鳴らしてみましたが・・・きっと想像以上なんでしょうね。9分9秒の第1楽章ですかぁ。第4楽章が終わったときの気分はどんな感じなんでしょう。ぜひとも、精神状態が良好なときに聴いてみたいですね。
by ポッチ (2007-03-20 15:07) 

e-g-g

◎ポッチさん こちらへも どうもありがとうございます。
想像を超えた演奏に出会えるとやっぱり嬉しいですね。気に入る気に入らないは別にして未知に出会うのは嬉しいことです。ほんとうは同時代を生きる演奏家の未知に出会うこと、これが楽しいのでしょう。
昨夜、第二楽章まで聴きましたが、睡魔に勝てず中断。今夜、再チャレンジです。それにしても、フリッチャイの顔はコワイです。
by e-g-g (2007-03-20 18:34) 

木曽のあばら屋

こんにちは。
9分9秒の「第5」第一楽章、興味をそそられますね。
でも確かに疲れそうな気も・・・。

フリッチャイの7番は、LPで持ってました。
というか、実はこの曲の「刷り込み演奏」です。
曲が曲だけに、それほど暗い感じはなかったように思うのですが、
いま手元にないので確かめられません。残念。
by 木曽のあばら屋 (2007-03-21 22:21) 

e-g-g

◎木曽のあばら屋さん こんばんは(はじめまして、でしたっけ?)
本文では“底の見えないような暗さ”などと書きましたが、これは多分にショップの試聴機の音質の悪さが影響していました。とにかくレンジの狭い妙に窮屈な音でしたから。家で、いちおうのシステムで聴くと思いのほか豊かなホールトーンで、陰々滅々とした感じはさほど強くはありませんでした。でも、やはり重く暗い響きではありますが。それと、あのテンポでも楽器をちゃんと鳴らしている、オーケストラはすごい技量だと思います。
このCDには7番も入っていますが、まだ聴いていません。「フリッチャイの運命ショック」が少し冷めてから聴くつもりです。
by e-g-g (2007-03-21 23:40) 

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