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ベーレンライター版の"ザ・グレート" [聴く・クラシック音楽]

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 シューベルトの「ザ・グレート」( D.944)は交響曲第9番と親しんできたが、最近は8番に変わっている。そもそもは第7番と呼ばれていたこともあったので、ちょっとややこしい。
 2日の日曜日、NHKのN響アワーはブロムシュテットが振るこの「ザ・グレート」。曲名を聴いただけで、第一楽章の主題が響いてくる「あの曲」だ。これからの桜の季節にも似合う(ちょっと強引・・・)

 が、しかし、このブロムシュテットの演奏、第一楽章はこれまで耳に馴染んできた4/4拍子ではなくベーレンライター版の2/2拍子。実はこの版のグレートを聴くのははじめてで、そして、ちょっと驚いた。

 そもそもこの交響曲は、第一楽章の悠揚迫らざるテンポが、曲の印象を形づくってきたと思う。いや、これまではそうだった。あの冒頭のテーマが頭の中で鳴り響くと同時に「シューベルトのグレート」のゆったりとした歩みの世界が広がる。
 そのゆったりさ加減のおかげで、全体を聴き通したらいったい何時間かかるんだろう?と、思えるほど、大きな印象の音楽である。ま、だから「ザ・グレート」なのかもしれないけれど。

 ところが、ベーレンライター版を使ったブロムシュテットの棒で聴くと、サッサッサと足早に、いや印象としてはちょっとせっかちな感じ、
歩みというよりは、ピョコンピョコンとスキップを刻むような印象になる。
 エッ!こんなに違うのか?じゃ、ずっと聴いてきた、あのグレートの歩みは何だったの?と思わずにおれない。こうなると、シューベルトの聴き方も、ちょっと注意しなければ、と思うのである。

 この曲、交響曲の番号が変わるのもややこしい。さらにややこしい話は続くもので、そもそもシューベルトの自筆譜ではこの部分は2/2拍子なのなそうだ。それが、ずっと聴いてきたブライトコプフ版では4/4拍子。それがここへ来て、また2/2拍子に戻っている。なぜ、そうなったかについて、私はそこまで調べていないから、よくは分からない。
 
 とはいえ、クラシックの演奏スタイルは、これまでにもいろんな変遷を経ている。たとえば、曲が作られた当時と今の楽器の性能の違い、あるいは今回のような改訂版の登場。とにかく“クラシックオンガクは大昔のものを十年一日の如く繰り返している”だけでは、まったく無いのである。
 とくにこの十年くらいは、ピリオド奏法(作曲された当時のスタイルに則った演奏)の浸透が目覚ましく、それまで知らなかった(聞こえなかった)音楽のカタチが、どんどん現れている。これはこれで、聴く側としてはきわめて面白い。

 まぁ、音楽の専門家ではない我々は、そういった変遷や解釈の違いをおもに演奏によって知ることになる。といった次第で、棚に並ぶCDも増えてしまう。
 手元にある演奏は、ジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団、カール・ベーム指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、それとヨゼフ・クリップス指揮ウィーン交響楽団、この3つだけだが、いずれも第一楽章の冒頭は4/4拍子。ゆったりと堂々としたテンポであることには変わりがない。
 こういった往年の盤は、下手をすると、それこそ時代がかった大風呂敷のように聞こえそうな、堂々として立派な(感じのする)演奏だ。もちろん4/4拍子である。

 でも、ちょっと耳慣れない、いやこれまでの耳からすると、かなり違和感のある2/2拍子のベーレンライター版の演奏も、いままで気づかなかった音のカタチを、たしかに聴かせてくれる。さぁ、これからはどっちをより多く聴くことになるのだろう?

 ブロムシュテットは80歳になるという。なんとなく若いという印象があったので、びっくりした。アーセナルのベンゲル監督に似た風貌はずっと変わらないけれど、その名前を知ってから、たぶん30年は経っているだろうから、老けないわけがない。時代は進むのだ。
 その80歳の指揮者が、新しいスコアを使って、新しい解釈を披露する。これは、やはり凄いことだ。テレビで見る限り、指揮ぶりもとても年老いては見えない。表現への欲求が老いに勝っているのか?

蛇足:
 クラシックを、そんなに頻繁には聴かないけれど、たまには、そうだあの「未完成」を聴いてみたいと思っているみなさん。未完成はシューベルトの第8番と思って、クリックすると「ザ・グレート」が送られてくる、ご注意を。

 

写真は代官山近くの「目切り坂」。その脇の空き地に咲く早咲きの桜。


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mamire

有名な「未完成交響曲」は今は7番なのですか。
学生時代に一度オーケストラで演奏したことは覚えているのだけれど、何番だったかしら?記憶が定かではありません。
あ~、年はとりたくないものです。
二分音符が二つ並んでいると、どうしても二拍子で拍子を取りたくなります。
先生は、四つ数えてというけれど、脳が受け付けてくれないの。
指揮をとっていると、振りやすさ、表現のしやすさで拍子が変わるってことはあるのかなぁと思います。
楽章全部の拍子が変わってしまったら、フレーズやアクセントがどんな風に変わってしまうのかしら。
聞き比べるって、本当に興味深いことなのですね。


by mamire (2008-03-05 15:59) 

kita

e-g-gさん こんばんは。
sonetのブログも落ちつきましたでしょうか?はたから見ていても大変でしたね。
さて、日曜のN響アワー、私も見ましたが冒頭を見逃したため、ベーレンライター
版とは気がつきませんでした。対向配置ながら、すっきりした今風の演奏だな
と思って見ていました。2/2拍子だったとは。どんどん最新の研究結果が反映
された演奏が多くなりましたね。先々月ノリントン指揮シュトゥットガルト放送響
を聴きましたが、ベートーヴェンのエロイカは勿論、アンコールのシューベルトの
ロザムンデ間奏曲もノン・ヴィブラート奏法でした。非常に興味深かったです。

手持ちのLP・CDを調べたら、
 フルトヴェングラー/ベルリン・フィル
 ベーム/ベルリン・フィル
 セル/クリーヴランド管
 ハイティンク/コンセルトヘボウ管
 ヴァント/ベルリン・フィル
でした。いずれも名演だと思いますが。最近は剛毅なヴァントをよく聴きます。
生では、1975年のベーム/ウィーン・フィルが忘れられません。
ベーレンライター版のCDはまだ出ていないようですね。楽しみです。
by kita (2008-03-05 20:02) 

e-g-g

◎mamireさん
未完成を演奏されたことがあるんですか、
それは良い経験(ですよね)。
未完成はかつては「8番」でしたね、
はっきりとは分かりませんが、「7番」に変わったのは、
そう、遠い昔のことではないようですよ。
国際シューベルト協会が1978年から改訂したようです。
もっとも、こんなコトすると混乱のもとだから、
昔通りでいこう!という人も多くいるようです。

クラシックでは、スコアの読み方によって
演奏も変わるということは多々ありますよね。
でも、こんどのはちょっとびっくりでした。
とくに拍子なんて、人の音楽生理のいちばん奥に
デ〜ンと座ってますからね。

by e-g-g (2008-03-05 20:53) 

e-g-g

◎kitaさん
ブログの設定やらなにやらに、
あんまり神経を使うようでは困る!
と、ほかのサービスもちょっと覗いたりしますが、
どこも、多かれ少なかれ不都合はあるようで、
ちょっと、諦めモードです。
自前で作る、これが究極の解決策なのでしょう。。。

さてグレート。
今風でしたね、メリハリが効いてゲンキでした。
ノリントンは生ですか?
私はオンエアされたものを録画して聴いています。
これも、面白かったですね〜

ノン・ヴィブラートといえば、おなじノリントンの
エルガーの交響曲一番が、とにかく凄かったです。
これもテレビで見たものですが、
いずれじっくりと聴き込みたいと思ってます。

1975年のベームも生で聴かれたんですか!
これはたしかFMのPCM放送で
生中継されたと記憶しています。
必至になってカセットに録音しましたが、
そのカセットテープ、何処へ行ったやら、、、
結局、後になってこの公演のボックスセットを買いました。
記事中のベーム盤は、このときのライブ録音です。
(そういえば今はDVDも出ているようですね)
それにしても、すごい演奏会、
熱狂のカール・ベームでした。
by e-g-g (2008-03-05 20:56) 

のすけの母

シューベルトの交響曲は「未完成」くらいしか聴いてなかったので、先日の「N響アワー」で「ザ・グレート」を聴き、いいなと思いました。
が、桜、でしょうか?
もっと違った印象を持ちましたが、なにせCDも持っておりませんので、もう一回聴いてみることもできません。
そう思うと、聴きたくなってしまいます。
録画しておけばよかった。

今年は、桜の開花は例年より遅そうなんだそうですね。
by のすけの母 (2008-03-05 22:57) 

e-g-g

◎のすけの母さん
ハッハッハ、ほんと桜でしょうかね~

番組のインタビューで、
“シューベルトは山を歩く、日本にも山が多い。
 だからこの曲は人気があるのでは?”
と、ブロムシュテットがおおよそこんなことを語っていたと思います。
そこからの連想です。
ちょっと無理があるかも、ですけどね、
でも、あのグレートのうきうきした感じは
花の開く喜びに通じるものもあるかもしれませんよ。
(ちょっと無理がある?)

さて、グレートですけど、
いま出ているCDは、従来どおりのブライトコプフ版の演奏がほとんどと思います。
それを聴くと、この日の演奏との違いに驚かれると思いますよ。
by e-g-g (2008-03-05 23:28) 

e-g-g

◎HEIJI☆さん
いつも、ありがとうございます。

◎Nicoli♪さん
お立ち寄り、ありがとうございます。
 
by e-g-g (2008-03-09 11:02) 

e-g-g

◎kitaさん
 “ノリントンは生ですか?
  私はオンエアされたものを録画して聴いています。”
と、書いてしまいましたが、
この「録画」は2001年11月、サントリーホールの演奏です。
エルガーの1番はこのときのものです。
ちょっと舌足らずな文章で、失礼いたしました。
by e-g-g (2008-03-09 15:41) 

kita

ご丁寧に恐れ入ります。
私は、1/30サントリーホールでノリントン/シュトゥットガルトを聴いたのですが
当日フジテレビが録画していましたので、いずれ放映されるかDVD化されるの
では。
曲目はヴォーン・ウィリアムス「すずめばち序曲」、メンデルスゾーン ヴァイオリン
協奏曲(Vn ジャニーヌ・ヤンセン)、ベートーヴェン「エロイカ」。アンコールは前述
のシューベルトの他に、ブリテンのマチネ・ミュージカルでした。
それにしても、アンコールでオケがノン・ヴィブラートとヴィブラート奏法を瞬時
に弾きわけるのには感嘆しました。ノリントンの訓練のたまものでしょうか。
by kita (2008-03-09 19:52) 

e-g-g

◎いろはさん

いつも、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-03-11 18:12) 

e-g-g

◎ハイマンさん
nice、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-03-11 18:13) 

daland

こんばんは。
私もブロムシュテットのグレイト見ました。(聴きましたでした)
なんとフレッシュなシューベルトなんでしょう。
ブロムシュテットって年取りません。
あぁ青春のシューベルト !
私の青春はどこへ行ってしまったのかなぁ。(笑)
by daland (2008-03-11 22:32) 

e-g-g

◎dalandさん
あんなグレート、聴いたことなかったですね~
ちょっと忙しいなとも思いましたけど、
この曲のこれまでのイメージを変えるには充分でした。
いずれ、BSで全曲が放送されるようですから、
その時に、もう一度しっかり聴いてみましょう。
by e-g-g (2008-03-13 17:34) 

e-g-g

◎奥津軽さん

◎masaさん

◎xml_xslさん

◎サチさん

◎井上酒店さん

お立ち寄り、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-03-13 17:59) 

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