初秋の鎌倉文学館 [水彩画とスケッチ]
春たけなわというのに秋風景、ところは鎌倉長谷の文学館。
訪れたのは去年11月の半ばころ、
それから四ヶ月後の、この三月に描いた一枚。
鎌倉駅を出た江ノ電、駅の数にして三つ目の長谷駅まで、
その線路にほぼ並行してバス通りが走っている。
友人がその通り沿いにブティックを開いているのだが、
こちら方面にくると、いつも立ち寄るのがならいになっている。
この日も、健康問題や世間話とコーヒーのセットをいただく、
いつもご馳走さま。
そこから歩くこと数分、明るい通りを海側とは反対の住宅街へ入る。
間近には人で溢れる長谷寺や大仏もあるが、
車の影も消え、人通りもちらほらと見える程度の
このあたりの空気はいたって静かだ。
バス通りから二、三分も歩けば住宅街も終わり、
豊かな木々とその背後の山の気配に入り込む。
こういった環境はこの土地ならではのものだろう。
都内から転居した心地よさのひとつを実感する一瞬だ。
住宅街を抜け緩やかな上り坂を奥へ進む。
数メートル進むごとにどんどん深くなる(ような気のする)
木々の密度を味わいながら歩けば、
直に文学館の入口に着く。
この文学館、もとは旧前田侯爵家の別邸だったが
鎌倉市が1985年以来、文学館として使っている。
そういえば目黒に住んでいたときも、
駒場の旧前田侯爵邸は良く通い、絵も何点か描いた。
建物の立派さは本宅のほうが勝っていると思うが、
この鎌倉の別邸のロケーションは格別だ。
南に開けた先に見えるのは由比ガ浜越しの相模湾、
そして明るく広い庭園やバラ園、
にわか鎌倉文学愛好者になるも良し、
日差しを浴びながら庭の趣に身を置くのも良し、なのだ。
今日あたりも、きっと絶好の空気に包まれているだろうなぁ、
と、思いつつ。
『初秋の鎌倉文学館』
F6(41×32.5cm)ホワイトワトソン・水彩