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東慶寺、遠望。 [水彩画とスケッチ]

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12月の7日、最後の紅葉を探しに北鎌倉の東慶寺を訪れる。

先ずは紅葉。
境内の奥、墓苑の一画まで進むと、
モミジの紅と緑のままの葉のコントラストに目を奪われる。
逆光に輝く紅葉を眺めていると、
足もとから這い上がってくる寒気も忘れる。

この鮮やかなコントラストを見せる紅葉も実に美しい。
こんな色彩配置を愛でる心持ち、
その積み重ねが私たちの色彩感覚の根っ子を、
たしかに形づくって来たのだろう、ちょっと派手だけれども。

が、この日は一本の大きな銀杏の黄葉に気持ちが動いた。
東慶寺の山門から右手に書院、本堂を見ながら少し歩くと
松ヶ岡宝蔵の白壁が目に入る。
その脇に大きな銀杏の木が一本だけ佇んでいる。
自発的な光源もないのに、なぜこんなに鮮やかに輝くのか?
文字どおり真っ黄色のその輝きは、周囲に強烈なエネルギーを放っている。
もちろん太陽の光を受けて輝くわけだけれど、
それは、見る者を燦々と光を放射する黄の世界に誘い込む。

たとえば、青山の絵画館前の銀杏並木、
倒れる前の鶴岡八幡宮の大銀杏などなど、
名物黄葉は他にもたくさんあるけれど、
この一本銀杏の色づきも見事なものだ。

東慶寺の細長い境内は両側が山地になっている。
この大銀杏もそのちょっとした谷戸形状の底に立っている。
まわりの木立も深く、なにより地形的に一日中陽が差す場所でもない。
それだけに、太陽の光を受けるわずかな時間の輝きは、
とても印象的だし、どこか舞台演出を目の当たりにするようだ。

その銀杏、離れた場所からはどう見えるのだろう?
思い立って、円覚寺・弁天堂の高台に向かう。
ちょっと息の切れる階段を登り、たどりついた見晴台からは、
鎌倉街道、JR横須賀線越しに東慶寺の境内を見下ろせる。
広い広い円覚寺に比べれば、東慶寺はなんとも箱庭のように可愛らしい。
一本の大銀杏はその中でもひときわ輝き、
この日、この時間ばかりは、
主役は本堂でも宝蔵でもなく、この私なのだと語っているようだ。

『東慶寺遠望』
F6(40×31.3cm) ウォーターフォード ホワイト・水彩

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