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古墳を歩く。 [逗子とその周辺]

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*1

逗子と葉山の境の小高い丘に古墳があることを知ったのは、
六月に転居してから間もなくのこと。
13年ほど前に地元の考古学愛好家によって発見された長柄桜山古墳、
四世紀の築造とされる前方後円墳がほぼ完全な形で残っている。
(詳しくはwikipediaなどで)

晴れ上がった体育の日、逗子の浜辺から登ってみる。
海抜0メートルから127メートル(1号古墳の最上部)までの道は
ちょっとしたハイキング。
保存整備の事業もまだまだ途中段階なのだろう、
そこに至るまでのルートもようやく整いはじめたという感じがする。

20121008_nagae_sakurayama_kohun_2.jpg
*2

海辺から高度を上げる途中、
木立の間からときおり相模湾がきらきらと顔を出す。
1号古墳と2号古墳をつなぐ約500メートルの尾根道からも葉山側、
ようするに東京湾方面が望めるらしい。
らしいと書いたのは、その道筋からは樹木に遮られて展望は期待できないから。
もちろん樹木の繁った森や林は丘陵を守るためにも貴重なもの、
それは重々承知の上で、
それでも、これが無ければ、さぞ見通しがきくだろうに、とつい思ってしまう。

同じことは古墳そのもについても言えることで、
1600年の時を重ねしっかりと根付いたコナラや杉・ヒノキなど
様々な木立に覆われて、その“高まり”を古墳と認識するには、
相応の観察力と想像力、それとある種の直感力も必要だろう。
事前に知っているから“古墳”と理解するけれど、
何の手がかりもなかったら、ごく普通の丘の上、と見てしまうだろう。
本格的な発見の以前から、その独特の地形は古墳ではないか?
と観察していた発見者の目はたいしたものだ。


“ 物事を丹念に研究したり、考証したりするよりも、
 周囲の景色や雰囲気を大づかみにとらえることの方に興味があった。
 平等院の場合もその例に洩れず、長年付きあっている間に、
 漠然とではあるが何かをつかんだように思う ”

白洲正子さんの『名人は危うきに遊ぶ』にある文章だが、
これはいたく同感で、絵を描きたくなるという感情も、
詰まるところ目の前の景色、雰囲気が淀みなく気持ちに入ってくるかどうかなのだ。

そんなことに思いを巡らしながら、古墳とその周囲の“景色”をぼんやりと眺める。
逗子市の整備計画によると、
いずれは一目瞭然で古墳と分かる公園風の佇まいになるらしい。
それはそれで良いだろう。
道はもっと歩きやすくなり、行き届いた説明も学習意欲を満たしてくれるはずだ。
誰でもが、これが4世紀の古墳と納得できるカタチになるのだ。

この日も1号古墳では周囲の木々の伐採が行われていた。
前方も後円も、かなりの木々が取り払われ、
そのおかげで素人目にも古墳の形が把握しやすくなっている。
こうやって整備が進めば、古墳はもっと“分かりやすく”なるはずだ。
そこから素人の研究気分や考証癖もさらに高まるかもしれない。

でも、今のままでも良いような気もする。
ある程度のきっかけをもとに乏しい想像力を働かせながら、
その場所でしばしの時を過ごす。
眼下に広がる(はずの)海の、その先を感じ、
木々を渡る風の音に耳を傾けながら、
その場に宿る何かのひとかけらを感じる、
曖昧な理解かもしれないが、そんな分かり方もあると思う。


古墳に向かう前に徳富蘆花記念公園と六代御前の墓を訪ねた。
その際、公園にあった“マムシに注意”の看板が気になっていた。
帰り際、住宅地のなかの“この先行き止まり”と書かれた先に、
徒歩ならば逗子の街へ降りる道がありそうな気配を感じる。
が、たまたま出会ったご近所さんに道の有無を訊ねると、
“ 道はあるけれど夏のあいだのヤブが深くなって歩きにくい、
 それと長いのも出る。ヤマカガシ、シマヘビ、マムシも、、、” と。
注意看板もあながち大袈裟ではないようだ。

そんなもの怖くて山道が歩けるか!と思いつつ、
明るいバス通りを歩いて街へ降りた。

20121008_sakurayama.jpg
*3

写真:
*1:一号古墳、前方から後円にかけて見る。
   手前が「前方」、画面左奥のこんもりとした高まりが後円。
*2:二号古墳の前方の真上につくられた歩行用の道。
   お墓の上を歩くことになる。
*3:一号古墳に近い住宅地から逗子の海、江ノ島方面を望む。
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コメント 24

よしあき・ギャラリー

歴史ある床しい地名が、市町村合併により、平板な地名に変わるような安直な近代化?を思い起こします。^^;
by よしあき・ギャラリー (2012-10-11 17:31) 

しろのぽ

ワタシの通った高校にも古墳がありましたが、この土盛り何?という感じでした(笑)
「わかりやすさ」も大切でしょうが、何気ない山の景色に溶け込んでいる姿、そこに至る時間の流れも含めて「感じる」余地も残しておいてほしいですね。
冬場になると、長いのがいなくなり、木々の葉も落ちて見やすくなりそうです。
by しろのぽ (2012-10-12 01:47) 

takenoko

へえ~という感じですね。
ほぼ場所はわかりますが、古墳とは気づきませんね。
by takenoko (2012-10-12 04:59) 

engrid

逗子に親しい者が住み、暮らしています
とても、逗子を気に入っています、、一度訪れてみたいです
by engrid (2012-10-12 07:33) 

匁

古墳が関東にも有るんですね。
初めて知りました。
by (2012-10-12 08:56) 

いろは

こんにちは^^
古墳が身近にあると言うのは、ロマンがありますね〜♪
お散歩も少し違った気分で歩けますね^^

by いろは (2012-10-12 14:14) 

e-g-g

◎よしあき・ギャラリーさん
近代化の名の下にどれほど多くのものを失ったんでしょうね~
でも、ようやく落ち着きのある時代になる、そんな予感もします。

◎しろのぽさん
以前の住まいの近くにも猿楽塚古墳がありました。
街の真ん中すぎて、とても古墳には見えませんでしたけどね。
古墳のようなものは、発見、保存、整備、ぜんぶ大事ですけど、
その残し方のセンスも問われるでしょうね、
それが文化の質なんだと思います。

長いの、、、苦手なんですよ~ なので、もっと寒くなれ!

◎takenokoさん
この丘は鎌倉の由比ガ浜あたりからも良く見えますね。
その昔、二号古墳は葺き石で覆われていたそうで、
海上からも輝く様子が見えたはず、とのことです。

by e-g-g (2012-10-12 20:00) 

e-g-g

◎engridさん
私と逗子の接点は子どもの頃の海水浴だけでした。
以来何十年かが経ち、
いざ都内から移ってみると、暮らしと自然の近さをしみじみと感じます。
鎌倉もすぐ隣、今日もブラブラ歩いてきました。

◎匁さん
まったく疎い考古学領域ですが、
調べてみると関東にもけっこうあるようです。
でも街が広がって人知れず消えていったものも多いのでしょうね。

◎いろはさん
ご無沙汰つづきです、、、
私にとってのこの古墳の発見は、
思いがけないプレゼントをもらったような感じです。
身近にあると、風景がなんとなく違って見えますね。

by e-g-g (2012-10-12 23:31) 

斗夢

木を切って整備する・・・嫌いです。
広々と空間が広がり見晴らしも良くなるでしょうが、歴史は置いといて作られたものになるようで。
道など必要最少限の整備にして欲しいです、木は簡単に生長しません。
by 斗夢 (2012-10-13 05:19) 

deko

古墳めぐりは好きで、何か所かの古墳を見に来ましたが、
立ち入り禁止のところもあれば、きれいに復元されて埴輪とかならんでいる古墳もありました。
私も、ある程度自然のままの、ちょっと解説板があるくらいの古墳が好きですね。やはり想像の余地があるほうがいいと思うのです。
by deko (2012-10-13 17:46) 

COLE

いいにしえの時を偲びながら
想いを膨らます
いいものですね
by COLE (2012-10-14 06:25) 

rtfk

こんにちは^^)
私は瀬戸内の生まれ育ちで古墳の多い地方ですので
新幹線や列車の窓からぽつんとした小高い丘を見つけると
古墳だろうなぁ~と思ってしまいます(^^)
こうして歩いて登れる身近な遺跡というのはいいですね☆

by rtfk (2012-10-14 17:08) 

mimimomo

こんばんは^^
ご訪問遅くなりました<(__)> ちょっと新潟の山で遊んでいました。
古墳と言われてみて、説明されて、やっと‘そうなんだわ’っと分かる程度で、、、
自然のまま残すのも良いですが、整備されて海が見えるようになるともっといいかも^^


by mimimomo (2012-10-14 19:25) 

e-g-g

◎斗夢さん
やはり管理指向が強いと型にはまってしまうのでしょうね、
いろいろな意味でセンスの良いカタチにしてもらいたいものです。

◎dekoさん
出来た当時を再現するのか?
過ぎてきた時の延長線上でとらえるのか?
軸足をどちらに置くかで遺跡の保存方法も変わるのでしょうね。
手をかけすぎず、といって荒れ放題にせず、けっこう難しそうですね。

◎COLEさん
こういう古い時代のモノを目の前にすると、
一瞬目眩を感じますね。

◎rtfkさん
西国は羨ましいです!
東国にも古いものはありますが、
その量も質も、やはり西には勝てません。
でも、せっかく見つかった古墳です、大切にしたいですね。

◎mimimomoさん
できた当時、この古墳からは海が良く見えたそうです。
逆に海上からは一種のランドマークとして存在していたとか、
その様子も、ちょっと味わってみたいですね。
by e-g-g (2012-10-16 19:31) 

mamii

綺麗に整備されて、海が見えるようになるとなおいいのだが・・・
by mamii (2012-10-16 20:58) 

タックン

こんばんは。
ご無沙汰してしまいました^^
四世紀の築造とされる前方後円墳
木々に囲まれて眠っていたのですね。
発見は素晴らしいことですが
私も今のままで残して欲しいと思います。
長い間積もってきた時間・空間が整備されることによって
消えてしまうのではないかと。
跡地から想像する方がずっとロマンがありそうです。
勝手な希望ですが^^
by タックン (2012-10-17 20:12) 

SILENT

海上から見て輝く古墳、浪漫を感じますね。
当地大磯にも古墳時代の釜口古墳と呼ばれる円墳が、
丘の上にあります。高麗の若光王と言う説もありますが、
付近の木を切った際、海上からよく見えるのに気付きました。
逗子の古墳は、よく見つけられたと思いますね。発見者の執念でしょうか。
by SILENT (2012-10-17 21:00) 

旅爺さん

古墳を見るのは大好きなので先頃行田市で沢山の古墳を見て来ました。
資料館もありましたよ。
by 旅爺さん (2012-10-23 17:47) 

mimimomo

こんばんは^^
ご訪問有難うございました♪
そちらの天気はどうでしょうね~
今日のわたくしの住む地域、妙なお天気でしたよ。
晴れたり曇ったり、急に凄い雨になったり、ハタマタ雷(><;
その凄い強雨の時、わたくしは外出していてびっしょり濡れました(__;
by mimimomo (2012-10-23 19:21) 

e-g-g

◎mamiiさん
やはりこの場所からは海を眺めてみたいですね。
冬、木の葉が落ちる頃にまた訪れてみましょう。

◎タックンさん
>長い間積もってきた時間・空間・・・
まったくそのとおりです。
それらを含めての史跡ですからね。
それにしても、この地はせいぜい鎌倉時代までか?
と思い込んでいましたが、いろいろと発見がありそうです。

◎SILENTさん
神奈川、というよりも相模の地には
渡来人の痕跡がずいぶんとあるのですよね。
この古墳の主もひょっとすると?などと想像してしまいます。
それにしても海から見える墳墓、
これまでまったく考えたこともありませんでした。

◎旅爺さん
関東は古墳には縁が無い、と浅学の極みですね〜
そうですか、行田にもたくさんあるんですね、
ちょっとベンキョーします。。。

◎mimimomoさん
いつも、コメントをありがとうございます。
この嵐の日の外出、大変でしたね〜

映画“ネバー・エンディング・ストーリー”に出てくる荒れ狂う空、
その雲の切れ目からファルコンが飛んでくる、
こちらの空模様はそんな感じでした。
今日、いったい何度空を見上げたことでしょう。

by e-g-g (2012-10-23 20:20) 

kiko1578

こういう所が近くにあるといいですね。土の草もはえてる
道がこの頃少ないですから 憧れます。
by kiko1578 (2012-10-23 21:25) 

☆はな

e-g-g さんの名越切通の夏の写真 素敵ですね

この古墳が発見されるまで 逗子には 前方後円墳がないと
思われていたとか~ 名越切通も 江戸時代の道とか(60㎝掘り下げた処)
歩くと 必ず 何か教えてもらえます  (^□^)゛゛
by ☆はな (2012-10-24 21:51) 

e-g-g

◎kiko1578さん
アスファルトの道ばかり歩いていると
土の感触を忘れそうになりますね、
幸い、転居したこの地には“草も生える道”が適度にあるようです。

◎☆はなさん
名越のほうもご覧いただいて、ありがとうございます。
この週末あたり、歩きたいですね。

この五月まで住んでいた近くにも猿楽塚古墳という
遺跡があったのですが、
なんとなく古墳とは西国のもの、と思い込んでいました。
これから、もっとしっかり歩いてみましょう。
by e-g-g (2012-10-26 18:20) 

JF

4世紀と今が繋がっているって実感できて凄いです♪
by JF (2012-11-01 16:08) 

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