さて、今年も。 [日々のデザイン]
丸善で絵と駅伝を見たあと、京橋の明治屋ストアを覗く。もう20年以上も昔の話だけれど、それこそ毎日のように通っていたかつてのクライアントである。
このクライアントの製品は、ジャム、パスタ、スープ缶から海苔、日本茶の缶や包装まで、ほんとうに数えきれないほどのパッケージのデザインに関わった。印象深い仕事というのはいくつもあるけれど、この一連の仕事も忘れ得ぬもののひとつである。
広告づくりや大半のデザイン関係の仕事は、基本的には一過性というか、ある目的を達成すれば消えていくものが多い。市場原理に基づく営みだから、それが当然でもある。
(企業やブランド、あるいは公共サービスなどのマーク、それとパッケージデザインには、比較的に長生きするものもある。もっとも、パッケージの場合は、初めから販売期間の短いものや、たとえばイベント的に出すものもあって、そのすべてがロングライフとはならないけれど。)
送り手(メーカーなど)の意図ほどには売上げが伸びず、新発売から半年で消えていくものもある。もちろんその反対もあるわけで、こればかりは実際に出してみないと分らない。
そんななかで写真のフルーツの缶詰めはデビュー以来、意匠を変えず、ずっと店頭に並んでいる。それが二、三年ならともかく、もう25年である。ここまで来ると、やはり感慨深いものがある。
どんなデザインも一人でできるものではない。コンセプトやコピーを一緒に考えた仲間、面倒を厭わずに根気強く付き合ってくれた若きデザイナー君達、撮影用の旬の果実を丁寧に用意してくれた産地の人々、無理な注文に応えてくれたカメラマン、デリケートな印刷再現にチャレンジしてくれた印刷会社、そしてなにより「そのデザイン」を採用してくれたクライアント。
さらには、その製品に手を伸ばしてくれる顧客(実は、この存在が一番大切なのだけれど)。
まぁ、こういった共同作業はどんな仕事にでも多かれ少なかれあるわけで、それ自体はごく普通の営みである。それでも、製品はそういった諸々が重なってはじめて世に出るわけだし、何年も経って思い返してみると、その奇跡的な幸運の巡り合わせに思いがいたる。
いろんな条件が重なって、何年も何十年も変わらずに現役を続けている仕事は、他にもある。ひょんなことから、店頭や新聞の広告などで、そんな昔の仕事を見つけることもあって、それは、やはり懐かしくもあり、楽しいもの。
もちろん、それを見る人は「今日が初めて」かもしれないから、その製品を手に取ったことと、製品自体あるいはデザインの息の長さなどといったことは無関係である。
要するに、時代に響いていなければモノの価値もデザインの意味も、用を足さないわけでもある。と翻って考えてみると、やはり反省やら後悔やらも、湧いてくる。
さて、目前にある仕事も、もちろん様々な条件の積み重ねがその「日の目の端緒」を用意してくれているのだ。と、妙にしみじみ思いながら、今年も、良い仕事を心掛けよう!と、実は毎年、年の初めにはそんな風に思うのである。
2010-01-06 19:31
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コメント(27)
>時代に響いていなければモノの価値もデザインの意味も
あと、人の心に響かなければ、時代は超えられないとも思ったり。
世代を超えた人達が、「あれ」と思った場合、自然に「それ」が思い浮かぶ
なんて、そんなのを生み出す仕事って素敵です。
by YASH (2010-01-06 22:22)
明治屋といえば、関西には京都三條店があるので、たまに立ち寄ります。“ハイカラ”なイメージですね。
缶詰のパッケージ、濃紺と赤のラインに何となく見覚えが・・・。
素敵なお仕事ですね。
by いそしぎ (2010-01-07 00:41)
ゆっくりと読ませていただきました。
創造に関わるお仕事は、それぞれに、いろんな思いがこもっているだけに、手元を離れ一人歩きしている姿を見ることは、見る時々によって、いろんな感慨がわいてくるものだと思います。
私も、そんな仕事だと良かったのですが、・・・、羨ましいなと思いました。
by よしあき・ギャラリー (2010-01-07 05:33)
明けましておめでとうございます♪
本年もよろしくお願い申し上げます<(__)>
素晴らしいお仕事をなさっていらっしゃったのですね~
昔、市場調査の仕事をしていたことが・・・市場はなかなか難しい^^
塩沢さんの絵は、どこかで見た事があると思いましたが、我が家に本がありました。割合夫の好む絵です。
今日は、ちょっと東京に出る用事があり時間があったら見に行ってみようと申しておりました。
by mimimomo (2010-01-07 05:38)
変えればいいというものでもないですものね。
デザインが商品の顔になり、ブランドとなるなんて、素晴らしいです。
明治屋はたまにしか行きませんが、妙に落ち着きます。
by のすけの母 (2010-01-07 18:09)
白地で明確で いいデザインだと思いやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2010-01-07 19:57)
とっても分りやすいデザインです。
キャンベルは種類が分りにくくても、長年変わらない。
変わらないことの大事さをいうの、メーカーはもっと重視してほしいな~。
年末に丸の内の店で、ここならあるかもと・・・探していたダークチェリーの缶詰を手に入れることができ、
明治屋さんの品揃えに改めて感動を覚えたばかりです。
パッケージは・・・外国っぽかったです。
洗剤、芳香剤など日用品の種類がとっても増えて、段々目は見えなくなっているので小さい文字は見えないし・・・ぱっと見はどれも同じようだし・・・
同じジャンルの製品は色もデザインもあえて、似たようなのをぶつけてきているように感じます。
詰め替えを買ってから・・・あ~~、間違った! が増えています。
特に「混ぜるな危険」とかあると恐くて混ぜられないので、本体付きを買いに行くと・・・
またまた、分らなくなったり・・・
これって、ついてけてないってことなんですね~(T.T)
by こぎん (2010-01-07 20:54)
こんにちは^^
ぎりぎりやっと丸善さんへ行って来ました!
塩沢宗馬さんの個展、拝見致しました。なんと!息子も行っていまして、すれ違いだったようです(^^)
塩沢先生の作品は、寒い景色なのに何故か温かい・・・
お人柄が感じられる素敵な絵でした。
本にサインを頂戴いたしまして、とても嬉しかったです(^^)
明治屋さんには寄りませんでしたが、あのフルーツ缶はe-g-gさんの作品だったとは・・・
これからも、ずっと変らないことをお願いしたいと思います。
by いろは (2010-01-08 16:46)
ご挨拶が遅くなりました。
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
今年も素敵な絵を楽しみにいています(^O^)/
by ミモザ (2010-01-08 19:36)
◎YASHさん
世の人の心は詰まるところ自分の心でもあるわけで、
そこんところがぐらつくと、
ものづくりだとかデザインだとか、とても言ってられず、
で、その自分の心、
これはそうそう簡単には進化も深化もせず、
その折々の積み重ねがデザインという仕事、、、
なのでしょう。
◎いそしぎさん
ずっと以前から濃紺と赤は明治屋のイメージカラーでした。
それを「ライン化」して統一的なイメージを示すこと、
これも(他の製品のパッケージも含めて)大きな課題でした。
◎よしあき・ギャラリーさん
カタチや色を扱う仕事をずっと続けてきたためでしょう、
エネルギーはそこでほぼ出し尽くしてしまいますから、
「絵を描く」までに、なかなか眼が向きませんでした。
もっと「描くこと」から遠い仕事をしていたほうが、
絵そのものは描けたかな?とも思いますよ。
◎mimimomoさん
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
えっ!泣く子も黙る市場調査!!!ですか~
苦手ですね~
目の前の数字を見ては、いつも唸って、、、
今も変わらず、、、です。
塩沢君の画集をお持ちとは、彼も喜ぶでしょう。。。
◎のすけの母さん
変わるべくして変わる、それがポイントですね、
ただ目先を変えるだけの場合は、
デザインのしようの無いこともあります。
そういう仕事は疲れます。
◎ぼんぼちぼちぼちさん
コメントを、ありがとうございます。
その白地ですが、アイテムごとのばらつきの
コントロールに神経を使うのです、けっこう。
◎こぎんさん
この缶詰め、実は裏面も見ていただきたいのですね~
(よろしければこちらを
↓
http://www.eguchi-design.com/pkg_My_1.html)
このデザイン以前のフルーツ缶は、
どのメーカーのものも、それはそれは古色蒼然としたものでした。
このデザインが出た翌年、
他社製品も一斉に似たデザインになりました。あぁ
日用品のパッケージも、ずいぶんと手掛けました。
ご指摘、耳に痛いです。
ともかく、分かりやすく魅力的に、
デザインに関わる者達は、さらなる志の高さを持ちたいもの。
なんて、えらそうな、、、
◎いろはさん
昨夜、塩沢君からの電話で、
いろはさんとHEIJIさんが来られたことを聞きました。
絵の方も気に入っていただけたようですね、
わざわざのお運び、ありがとうございました。
関わった仕事の中で、あのフルーツ缶は
ほんとうに長生きしてます。
他にも、たぶんふだん何気なく使われている日用品などにも、
いろいろとありますが、もっと短命だったり、
その後、他の人の手で改変されたりしています。
オリジナルのまま生き長らえるというのは、
なかなか大変です。
◎ミモザさん
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
絵、たくさん描きたいですが、
なかなか時間がとれません。
でも、志だけは、、、
by e-g-g (2010-01-09 16:32)
明治屋のフルーツ缶のデザイン 上品でわかりやすくて大好きです。
by すずめ (2010-01-09 17:40)
定番の商品のパッケージをデザインするというのは素晴らしいですね。
正しくは定番を目指した商品でしょうか。
25年パッケージまで含めて変わらず続いている商品
というのはあまりないのではないでしょうか。
by HEIJI (2010-01-09 19:36)
良いデザインですね。銀座の明治屋はよくいきますが、いつも店の中を見て回るのが楽しみです。本年もよろしくお願いいたします。
ことしも素晴らしい記事、写真を待っています。
by gillman (2010-01-09 20:29)
先日すぐ拝見しましたが、コメント後でと思ううちに忘れていました(^_-)
この缶詰よく知ってますよ、e-g-gさんのデザインだったのですか
素敵なお仕事ですね、
我が家のお嫁さんもそんな道を歩んできて今育児で家にいますが
お菓子屋さんの箱と包装紙のデザインしたそうで10年くらい使われているそうです、子育てが終わったら、そちらの研究所に送り出したいですね(笑)
by ももこ (2010-01-09 23:58)
この缶詰のデザインはe-g-gさんがデザインしたのですか?
シンプルで判りやすくて良いですね。
by 響 (2010-01-11 20:30)
◎すずめさん
ありがとうございます。
「分かりやすさ」、いつも心がけることですが、
これが、なかなか。。。
◎HEIJIさん
この製品に関わって、日本中の産地のこと、
様々な工場のこと、ともかくいろんなことを知りました。
そういった環境というか仕組みが定番を支えているわけで、
デザインもその働きのうちのひとつですね、
どれが欠けても長くは続かないですね。
◎gillmanさん
ありがとうございます
>見て回るのが楽しみ
その期待感を裏切らないこと、
これは小売りにとって、とても大事なことですね。
◎ももこさん
素材や中身がしっかりしていいること、
それがデザインの条件ですね。
そこがクリアされていれば、
デザインは、それをほんの少し後押しするだけです。
家庭、家族を持つと、
デザインへの姿勢もいろいろと変わるはずです。
そういった変化や深化を、また仕事に反映できると
良いですね。
◎響さん
マーケットデータやら何やらの数字や分析、
製造上の制約、企業の営業力・販売力の規模、、、
そんな諸々の条件をスッとひとつにまとめる、
それがシンプルにわかりやすくカタチになれば、
だいたい上手くいきますね。
まぁ、あとから考えると「そうだった」という感じですけど。
by e-g-g (2010-01-12 17:48)
ジャケ買い、という言葉があるように、パッケージ
デザインというの本当に大切で、まず人の心を
掴む役割がありますよね。食べ物の中身がどんなに
素晴らしくても、まず手にとって買ってもらって、食べて
もらわないことにはリピーターになってもらえない。
大変ですが、やりがいのあるお仕事ですね。
by masugi (2010-01-13 11:41)
e-g-g様が、大好きな明治屋のデザインに関わっていたなんて、すごい!
それに、なんだかとってもうれしい。
初めて勤めた仕事場の近くに明治屋があって、ずいぶん料理教室に通いました。
分かりやすい、覚えやすい、手に取ってみたくなるそんなパッケージですね。
時代と共にに、デザインは変わっていくのかと思うけれど、そんな流れについていけない者もいます。
みかんは、みかんらしく、りんごはりんごらしく。
思わず手に取ってみたくなるパッケージです。
by mamire (2010-01-13 15:43)
こんにちは。
いつもご無沙汰ばかりで申し訳ございません<m(__)m>
知っている人の仕事や商品、作品に出会ったりすると
「ねっねっ! これってねっ!・・・」と
自分の事のように 自慢しちゃったりして・・・(^^ゞ
mamireさんも書いてらっしゃいますが ↑
やっぱり嬉しいですものですよね!
今年もお仕事、そして絵と 頑張ってくださいね。
楽しみにしています♪
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
by 東雲 (2010-01-14 16:53)
◎masugiさん
パッケージの大きな目的は製品保護ですが、
同時にPOPであり、ポスターであり、広告でも
あるわけですね、
そこのバランスの取り方がなかなか難しいです。
◎mamireさん
そうですか、明治屋の料理教室に、、、
夕方に京橋での打合せに向かうことが多く、
教室へ通うお嬢さま方とよくすれ違いました、、、
ということは、ひょっとしたら、、、
>みかんは、みかんらしく
これは嬉しいですね、そう感じられるように
いろいろ手を尽くしましたから。
素直にストレートに!余分なものは付け加えない、
この仕事もそうですが、
だいたいいつも、いわば引き算でデザインします。
◎東雲さん
わざわざありがとうございます。
デザインは普通、作者の名前を出さないんですよね、
まぁ、この仕事は、もう25年も経っていますので、
良いかな、と思ったのですが、
意外にご存知の方もいらっしゃるようです。
どこでどんな方々に見られるか分らない!
これは、商品である以上ごくごく当然のことですが、
やはり、ちゃんと作らないと、、、
by e-g-g (2010-01-15 16:55)
シンプルなのにハッと目につくデザインですね。
25年 変わらずですか!
たくさんの人の目に インプットされているのですね
私もこれからはe-g-gさんのアイコンと共に
よりふかくインプットされそうです^^
by タックン (2010-01-16 15:08)
ガマさん
明けましておめでとうございます
シンプルで中身をはっきりと伝える良いデザインですねー
自分がやった仕事を見つけると嬉しいですよね
私の場合は製品ですが、それを使っている人を見つけると
つい使いかってを聞いてしまいます。
by ガマさん (2010-01-16 15:51)
◎タックンさん
おかげさまで、なかなか消えません、、、
と言いますか、他が変わりすぎなんですよね~
でも、変わってくれないと我々の仕事にも影響します、、、
◎ガマさん さん
まだ1月ですね、
あらためまして、おめでとうございます。
プロダクト寄りの仕事にちょっと関わった時に
想像もしないような使い方に出会って、どきどきしました。
プロダクトもグラフィックも、手がけている時は、
ある意味できわめて個人的な想いの積み重ねですが、
世に出ると同時に、一人歩きしていきますね。
面白い仕事です。
by e-g-g (2010-01-20 17:39)
明治屋さんの製品は真面目に作っているものが多く、消費者としてとても
好感が持てます。
だから長く使えるし、それを象徴するパッケージデザインなのもロングライフ
を支えているのでしょうね!
優しい意匠がとても好きです。
携わったスタッフの愛情がとても感じられますよ。
by 浜松自宅カフェ (2010-01-22 09:05)
◎浜松自宅カフェさん
パッケージデザインは、まずなんと言っても中身ですね。
ここがしっかりしていないと始まりません。
それと、その中身の良さや性質を
これまでとは違う視点から見ることも大事ですね、
製品の良い点を見落としていることも多々ありますから。
いずれにしても“馬子にも衣装”は通用しません。
by e-g-g (2010-01-25 16:56)
この桃缶。。風邪引くと買ってくれました^^
美味しいんですよね〜
パッケージ見るだけで元気になります☆
良い仕事してますねー
by masa (2010-02-05 23:42)
あっ、風邪のとき、
冷たく冷やして、美味しいでしょうね。
この仕事のときに、
“旬のいちばん良いときに詰めるから美味しいはず”
と製造から話を聞きました。
洋梨、びわ、アレキサンドリア、みんな美味しいです。
それから、これらを使ってポンチを作ると、
これがまた良いのですね~
by e-g-g (2010-02-09 18:46)