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さようなら、ラローチャおばさん [聴く・クラシック音楽]

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9月25日、ピアニストのアリシア・デ・ラローチャが亡くなった。
2003年、サントリーホールで“日本に来るのもこれが最後、だって飛行機は疲れるし!”とプログラム終了後に、ちょっと残念そうに、でもちょっとお茶目に話していたのが忘れられない。

 ラローチャは、もっぱらモーツァルトを聴いてきた。
ピアノソナタ、協奏曲、どれを聴いても破綻のない、
といって、地味で面白みのない演奏とはまるで違う。
外連味のない安定と節度が、
安心感というか、とにかくホッと寛げる印象を与えてくれる。

さて、どんな音楽を聴かせてくれるのだろう?
と、ある種の緊張感を伴って聴くピアノ、たとえばグールド、
そのスリリングな経験も、また楽しい。
でも、全身が優しくふっと包まれるようなラローチャおばさんの
ピアノに触れること、それも音楽を聴くことの愉悦のひとつである。

もうずいぶんと長いあいだ、
モーツァルトのソナタやコンチェルトを聴きたいとき、
手を伸ばすのは、ラローチャのCDだった。
いまのオーディオシステム、そのスピーカーを決める際の試聴盤も、
ラローチャとコリン・デイヴィスのコンチェルトだった。
ピアノは気持ちよく粒立ち、オーケストラは柔らかく品良く、
そしてどちらも軟弱にならず、音楽の芯は失わず、、、
そんな思いで秋葉原に通ったものだ。

サントリーホールでのコンサートでは、
アンコールのモンポゥが良かった。
もちろん、モーツァルトやシューマンも良かったけれど、
ほとんど初めて聴くモンポゥのきびきびと踊るようなリズムと、
目の前に現れる鮮やかな色彩感が印象的だった。
スペイン出身のピアニストだからスペインものは得意、
と、以前から当然のように言われてきたことだけれど。
ともかく、すぐにCDを買って聴こう!と思ったのにそのままになってしまった。
こんどこそ、ラローチャのモンポゥを聴こう。

86才で亡くなったラローチャは、
大家的ピアニストのほんとうに最後の方の一人かも知れない。
もっとも、150cmにも満たない身長と、
優しく人懐っこい表情から奏でられる演奏は、決して大家的では無い。
むしろその逆とも言える。

しかし、ラローチャの存在は、
ピアニストと聴衆をとりまくその環境の土台というか支えるものが、
やはり20世紀的なものを礎にしているように思える。
溌溂として生のいい、そしてテクニックも唸ってしまうような
ピアニストがたくさんいる。
そういった「いまを生きる演奏家」の音楽に触れるのも楽しいし、
実にわくわくすることもある。
それでも、あのふくよかで愛らしく優しさに満ちた
ラローチャの音楽の価値が消えることはない。


ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、
共演はアンドレ・プレヴィンとロンドン交響楽団。
1974年録音のこの演奏も忘れ難い。

nice!(17)  コメント(7) 
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コメント 7

micyu

お久しぶりです。
ラローチャさんが亡くなったのですか。
レコードを聞くようになってから、最初の頃に良く聞いていました。モーツアルトはハスキルに傾倒していったので聞く機会が少なくなったのですが、スペインの楽曲やグリーグのコンチェルトなどが不思議な雰囲気をかもしだしていました。今でも暖かい地方と寒い地方の楽曲を魅力的に弾きこなしていた驚きがよみがえってきます。合掌。
by micyu (2009-10-12 11:39) 

e-g-g

◎micyuさん
こちらこそ、ご無沙汰してます。
ハスキルを聴かれていたら、きっとラローチャも気に入ると思いますよ。
スタイルは違いますが、実に真っ当なピアノです。
あと、バッハもベートーヴェンもとても良いです。
とにかく守備範囲の広いピアニストでした。
年齢的に致し方ないとはいえ、もう少し聴きたかったです。

by e-g-g (2009-10-13 15:48) 

mimimomo

聴いてみたくなりました。
by mimimomo (2009-10-15 19:49) 

e-g-g

◎mimimomoさん
音楽の好みは人それぞれですから、
「お薦め」はなかなか難しいのですが、
ラローチャのピアノはほんとうに安心して聴ける演奏です。
ぜひ、どうぞ。

by e-g-g (2009-10-20 20:55) 

daland

daland です。
こんばんは。
ラローチャが亡くなったのは知りませんでした。
いつまでも元気なおばあちゃんてな感じでした。
やはりモーツァルトです。
今引っ張り出して聴いてます。9番
粒立ちのいい音はモーツァルトにピッタリ。
緩徐楽章のしっとり感も素敵。
あとラヴェルの2曲のコンチェルトも大好き。
もう聴けないなんで残念。
by daland (2009-10-21 22:31) 

e-g-g

◎dalandさん
ラローチャの九番、良いですね、絶品ですね。
ピアニストの存在が消えてるんですね。
あるのは音楽だけ、
こういう演奏、少ないと思います。
どういうわけかラヴェルのコンチェルトが手元にありません。
不覚でした。なんとかしなければ、、、

by e-g-g (2009-10-25 20:06) 

e-g-g

◎xml_xslさん

◎よしあき・ギャラリーさん

◎Krauseさん

◎一真さん

◎こぎんさん

◎デザイン屋さん

◎アマデウスさん

◎mitsuさん

◎ムネタロウさん

nice、ありがとうございます。

by e-g-g (2009-10-25 20:07) 

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