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50キロサイクリングとスケッチ三点。 [水彩画とスケッチ]

20081012_tamagawadai_koen.jpg

 スケッチブックを開いて鉛筆を取り出したころ、西の空は良く見ればかすかにピンク色が差す程度だった。戸外で風景を描くなどというのは、たぶん四十年ぶりくらいのこと。上手下手という以前に、まずは描くことに慣れる、そのためにはスケッチに出かけなければ。

 
  昼前、スケッチの道具をデイパックに詰めて多摩川に向かう。足は自転車。交通量の少ない国道一号線をひた走る。初めは横浜まで走るつもりだったのに、多摩川大橋手前の矢口で多摩川サイクリングロードへ進路変更。理由は、横浜まで往復すると絵を描く時間が短くなりそうだったため。

 今日の一枚目は、羽田空港近くのモノレールが地下へ入る間際の多摩川の河岸。さすがにもうほとんど海のようなところだから、川といっても茫洋とした風景が広がるばかり。ならば、と無骨なモノレールの橋桁がリズミカルに並ぶさまをスケッチ。
 カメラだったらたぶんシャッターを押さないようなこんな辺鄙なところでも、鉛筆を走らせながらしみじみと見ていると、いろんなものが目に入る。描くというのは面白い。

 房総の方から滑走路に侵入する大小のジェット機、時折通過するモノレールの車窓には、やはり休日、さすがにビジネスマン風の乗客は少ない。小さな干潟になったところには、サギの仲間や、名前は分からないけれど野鳥が多数。描いているうちに、遠くに見えるクレーンの位置が少し変わる。たぶん空港の拡張工事のものと思うけれど、今日も作業なのだろうか。
 描き終えて多摩川を見ると、野鳥たちが群れていた小さな干潟が消えている。潮の満つる、ここは海なのだ。

 二枚目は、河口から二キロほどを遡った釣り舟の溜まり。少し西に傾きはじめた太陽の光が水面に見事な反射模様をつくる。その光が船の腹に跳ね返り、そこをなんとか描こうとは思うものの、そう簡単にはいかない。この反射をささっと描けるようになるには、いったいどのくらいの時間が要るのだろう?と考えながら、それでも二艘の釣り舟は楽しい題材だった。

 羽田でのんびりしたため、最後の多摩川台公園に着いたのは三時半過ぎ。ちょっと微妙な時間だ。真夏のように六時を過ぎても明るければともかく、秋の日はあっという間に落ちるのだ。
 台というだけあってちょっと高いところにこの公園はある。でも自転車を一所懸命に漕いで登れば、高いところから見下ろす多摩川の景色に会える。やっぱり寄って良かった。

 今の季節、木々の葉はまだ青く茂っている。多摩川を眺めるには葉の落ちた真冬が良いのだ。スケッチブックを抱えた人もけっこういたけれど、みなさん多摩川があまり見えず残念そう。なのであるが、実は一ケ所だけ、木々の間にポッカリと開けた場所がある。そこからは、それこそ絵に描いたような蛇行する多摩川を目にすることができる。
 スケッチ用のベンチ(そんなのあるわけないけれど)には、三人ほどの方々がすでに描いている。その仲間に加えてもらって、私もいそいそと描きはじめる。それにしても、みんな(私も含めて)年配者ばかりだ。老後の愉しみに水彩スケッチ!これは、歳相応の趣味として極めて典型的なパターンなのだろうか?

 描き終えるころ、夕焼けが始まる。初めのうちは遠慮がちに描いていた低い空のピンクに、もうひと筆赤みを差す。空の色を反射して川面もところどころオレンジ色に変わっていく。何度見ても飽きない光のドラマ。陽の光と影に感謝。

 さて、この場所から自宅までは十キロと少し。家に着くころには暗くなるはず、自転車のハンドルにライトを付けて、あとひと走り。



 オートバイでもこういったスケッチ散歩をしたかった。もちろん、その気になれば出来るはずだけど、どういうわけかオートバイは走ることに気が向いてしまう。エンジンの付いた乗り物は、やはり速い。クルマよりは良く見ているはずの風景も、さっと通り過ぎてしまう。そして、「もっと先」に向かってしまう。

 もっと先へ、という感情は自転車でも、もちろん起きる。ただ、自転車は、歩く速度プラスアルファくらいのスピードで走っていれば、あっ、ここだと思った瞬間に1メートルで止まることもできる。スケッチ散歩には、やはりオートバイよりは数段向いている。

 走行距離は54キロ、スケッチに要した時間は都合4時間ほど。ちょっと暑かったけれど、それでも太陽の明るさに感謝する楽しい休日だった。

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コメント 26

こぎん

素敵な多摩川の夕景ですね。
栂池自然園でもスケッチをされている方が数名いらっしゃいました。
みなさん、至福の時間に見えました。
描けるって。。。羨ましいです。

by こぎん (2008-10-14 08:22) 

袋田の住職

水辺は野鳥たちのオアシスですね!
羽田へ行く時、モノレールから眺めてます。
by 袋田の住職 (2008-10-14 13:05) 

こうちゃん

ご訪問、ありがとうございました。
淡い、配色がやさしいですね。^^
by こうちゃん (2008-10-14 14:40) 

berry

都下の多摩川の風景を思い出しました。
夕刻の多摩川、やさしくて暖かい絵ですね。
by berry (2008-10-14 17:24) 

haru

サイクリングしてスケッチ、小学生の頃よくしていましたっ
スケッチブックとクレヨン(12色)があればず~っとひとりで
遊んでいられる子どもでしたねぇ・・・(遠い想い出っ^^;)
by haru (2008-10-14 17:42) 

HEIJI

明るい色使いですね!
広い河原で、いかにも多摩川らしいです。
オートバイは止まりたい場所に止まれないです。ほんの数m先なだけなのに、全然違う景色になったり。

by HEIJI (2008-10-14 21:17) 

masa

ご無沙汰してます
スケッチ始めたんですね~
癒されました。写真と違い温かみがありますね(^^)/
いつも見ている多摩川も違った雰囲気。いいですね。
パソコンではなく、文具を使うってところも
仕事ではなく休みモードになるのかな?
こうゆう小旅行も素敵ですね♪
by masa (2008-10-14 21:43) 

e-g-g

◎こぎんさん
ワタシは至福までにはとてもとても、、、
それでも、集中して描く時間はなかなか貴重なものだな
とも思いますね。

◎袋田の住職さん
いつもは出張など、あわただしく通り過ぎてしまうところです。
たまには地上から野鳥や川面をのんびり眺めるのも良いものですね。

◎こうちゃんさん
コメント、ありがとうございます。
彩色は、ほんとうはもう少し色を乗せたかったのですが、、、

◎berryさん
描いているうちにどんどん夕方になって、
当然、見える色も変わります。
少しあわてながら でもそれもまた楽し、です。

◎haruさん
遠い思い出ですか?
また描かれてみてはいかがでしょう?
けっこう楽しいですよ。

ワタシは描くのは好きでしたけれど、
根気不足ですぐに投げ出してしまう子供でした。

◎HEIJIさん
この日は太陽の光が強かったです。
実際には、もっと色の濃い風景なんですけどね。

水辺の変化、足元の野草、ほんの数歩で変わる景色、
歩くのがいちばん向いていると思います。
でも、行動範囲が限られる、
自転車はちょうど良い案配かな、と思いますね。

◎masaさん
風景をスケッチしようなんて、あまり思わなかったんですけどね、
とりあえず始めてみました。

真夏は暑い!冬は手が冷たい!
ということで、スケッチをするにも今頃はベストですね。
それと、眼は優秀なカメラでもありますから、
色も思いのままにコントロールできます。
いい加減にごまかす、とも言いますけどね。

by e-g-g (2008-10-15 14:01) 

e-g-g

◎クララさん

◎カフェオランジュさん

◎一真さん

◎xml_xslさん

◎旅爺さんさん

◎としゆきさん

◎yamagatnさん

niceを、ありがとうございます。

by e-g-g (2008-10-15 14:04) 

のすけの母

こんなにさらっと美しい絵が描けるなんて、心底うらやましいです!!
たいてい、巧みな人ほど簡単そうにやるものです。
で、はたから見てると、「自分にもできそう」と思い、実際にやってみて後悔するもの。
そんな苦い思いをたくさんしてきました。
こんなふうに表現できる才能は、すばらしいです!!
by のすけの母 (2008-10-15 22:23) 

ヒロノミンV

 ああっ!素晴らしい絵です。たぶん自分は行ったことがない場所だと思うんですが、既視感・懐かしさを感じました。
by ヒロノミンV (2008-10-15 22:32) 

akipon

確かにバイクだと先に進みすぎてしまうことがよくあります。
何事もそれに見合ったスピードが大切ということなんでしょうか。

サイクリングとスケッチ、老若男女を問わずトライしてみたい
趣味だと思いますが、ゆったりとした時間を取れない人が
多いということなんでしょうか。僕もそのうちやってみたいです。
by akipon (2008-10-15 23:16) 

井上酒店

とても素敵な絵が出来ましたね。流石ですね。のんびりと絵を描く時間もとても大切な時間ですよね。自転車で身体を動かし、絵を描き、感性を磨く!素晴らしいです。
by 井上酒店 (2008-10-17 10:46) 

e-g-g

◎のすけの母さん
いやいや、さらっと美しいなどと言われると、
これはコマリマシタ、ほんとに。
でも、描いてみると、実にいろんなものが見えるものですね、
これはけっこう楽しいですよ。

◎ヒロノミンVさん
こういう風景が見たいなぁ、という気持ちが
たぶん絵にも出てくるのでしょうね。
ただただ素直に描いているだけでも、
いろんなものが現れますね。

◎akiponさん
描くには、歩くかせいぜい自転車の速度が合っていると思いますね。
バイクでも、ここぞ!と決めたところで降りて、
少し歩けばよいのですが、、、
いずれにしても時間はいくらでも欲しいものですね。

◎井上酒店さん
流石といわれると???ですが、ありがとうございます。
遠くまで走りたい、描く時間も欲しい、
けっこう忙しいですよ。

by e-g-g (2008-10-19 19:05) 

e-g-g

◎フェイリンさん

◎甘党大王さん

◎デザイン屋さん

nice、ありがとうございます。

by e-g-g (2008-10-19 19:10) 

e-g-g

◎スカピオサさん

◎leeさん

◎Nicoli♪さん

◎sanjinsaiさん

nice、ありがとうございます。

by e-g-g (2008-10-26 18:20) 

daland

daland です。
小学生の頃、もう少し上流ですが、多摩川の近くに住んでました。
暗くなるまで自転車で出かけて遊んでました。
スケッチを拝見して忘れていたその頃のことを思い出しました。
懐かしい気持ちでいっぱいです。
by daland (2008-10-28 22:53) 

barbie

距離を走ることばかり考えてました(^_^;
サイクリングの合間にスケッチができるなんて最高ですね。
ステキな絵ですね。
私も書いてみたいな~♪
by barbie (2008-10-28 23:22) 

e-g-g

◎dalandさん
そうですか、多摩川の近くに住んでいらしたのですか。
広くて、明るくて、自然も豊富。
良いところですよね。
子供時代を過ごすには最適ですね。
川を描きたくなるのは、その懐かしさを
無意識に思い出しているのかもしれません。

◎barbieさん
自転車も、やっぱり距離を走った充実感はありますよ。
達成感もありますしね。
でも、立ち止まって少し落ち着いてみるのも
良いものだな、と最近はそんなことも感じてます。

by e-g-g (2008-10-30 18:37) 

mamire

こんにちは。
ご無沙汰している間に、素敵な作品がいっぱい。
ゆっくり拝見させていただきますね。
そうそう、散策しながら絶景を見つけるのは、バイクでは無理かもしれませんね。
あまりにも早くて。
やっぱり、車は移動の手段なのかも。
by mamire (2008-11-10 15:41) 

e-g-g

◎mamireさん
ハイ!何の恥じらいも無く、しゃあしゃあと載せはじめました。
でも、あまりゆっくりと見ないでください、アラが見えますので。

陽気の良いあいだは自転車でしたが、
真冬になったらどうしよう、と思案中です。
ぬくぬくと暖かいクルマで出かけたり、、、
なにしろ根性無しですから。

by e-g-g (2008-11-10 20:33) 

e-g-g

◎東雲さん

◎Lobyさん

◎masugiさん

◎CHIKOさん

◎ミカチさん

◎奥津軽さん

みなさん、nice をありがとうございます。

by e-g-g (2008-11-10 20:35) 

murasawa

水彩画 いいですね~
チャレンジしてみたいと思ってても なかなか
スケッチしたのは小学生のときかな・・・
by murasawa (2008-11-16 13:25) 

e-g-g

◎murasawaさん
子供のころの写生は「正確さ」が目標だった気がします。
いまは、きっと違うのでしょうね。

「見たとおり」より「思ったとおり」に描ければ良いですね。

by e-g-g (2008-11-17 22:44) 

hidechan

景色や、「物」を、ジッと時間をかけて観察して、それを今度は 「画」に表現する・・・
時間の流れが速い今の時代、もう すっかり忘れてしまっていた感覚です。
何でもかんでもデジカメで「記録」はできる。
でも、そのときの「気持ち」は、なかなか込められないです・・・

画を描くこと・・・
こんな時代だからこそ、必要なのかもしれません。
e-g-gさんに影響を受け(・・・すぐ影響を受けてしまう 単純にできています!)、またちょこっと、私も、真似をさせていただこうかな と思います。
by hidechan (2010-10-18 17:11) 

e-g-g

◎hidechanさん
こんな以前の記事に、わざわざありがとうございます。

昔を懐かしむわけではありませんが、
写真の撮り方がデジタル以降、明らかに変わりました。
じっくりと慎重にというより、とりあえず撮っておく
そんな態度が少なくとも私の場合多くなりました。
そして最大の弊害は、シャッターを押すとすぐに「次」へ
目が行ってしまうこと、
これは私個人の癖でもありますが、どうも落ち着きが無いのですね。
(学生時代の教えも、どこかに忘れて、、、)

写真でなければ表現できないこと、
シャッターチャンスという代え難い写真の強み、
そんなことも十分に分かった(つもり)上で、
もう少し、気持ちを落ち着けて風景やモノを見よう、
そんな思いがずっとありました。
友人の絵に触発されて、そこに灯がともったという感じです。
(何事につけ、私も、じつに単純なのです)

「記録」も大事ですが「気持ちを込めた記憶」、
その眼をもっともっと磨きたいですね。
さぁ、どんどん描きましょう!
最近ちょっとペースが落ちていますが、私もどんどん描きます。

by e-g-g (2010-10-18 19:47) 

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