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販売終了 [日々のデザイン]

 銀座の伊東屋では、インスタントレタリング、スクリーントーン、オーバーレイ、ラインテープ、切り文字、みんな販売終了なのだそうだ。

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 紙を探しに久しぶりに銀座の伊東屋へ向かう。かつてはここに行けば絶対に面白いナニカがある!と、そういうショップだったけれど、世の中に良いもの変わったものがこれだけ溢れると、その存在理由もだんだんと希薄になってくる。もちろん、まだまだ気の効いたモノはあるし、ちょっと気取った感じを除けば、落ち着いた店内も気持ちの良いものだ。

 目的の紙探しは、なんと紙を扱うスペースが以前に比べて5分の1くらいになってしまった。これほど縮小されては品揃えも期待できない。とても「探す」にはいたらず、仕方なく神田の紙専門店へ向かう。
 それにしてもである、高級紙の全紙サイズなどはそれなりの値段もするけれど、所詮紙である。そんな低単価の品を、よくもこんな地価の高いところで扱っているものだ、といつも感心していた。まぁ、そのおかげで、紙なら伊東屋の5階!といつも頼りにしていたわけで、これから先の紙探しが思いやられる。

 さて神田へと、店を出ようとすると「販売終了のお知らせ」のポスターが目に入った。そのお知らせの中の「7F 」には、レタリング用品、エアブラシ用品、コミック用品、製図機、テンプレート、ノギス、染料、マーブリング、、、とある。
 実体を良く知らないコミック用品を除けば、あぁ、あれね、と思い当たるものばかり。それにしても、ノギスなんて良くも現在まで扱っていたものだ。
 レタリング用品の内訳を見ると、インスタントレタリング、スクリーントーン、オーバーレイ、ラインテープ、切り文字、とある。デザインの仕事の大半が手作業だったころ、ずいぶんとお世話になったモノばかりである。でも、もう十年以上も使ってないモノばかり。世の中、変わったのである。

 そう、パソコンの出現で、ぜんぶ消え去るモノばかりなのだ。お絵描きソフトが使える程度の能力だったパソコンが、精度の高い版下作成マシンに変貌したときから、この運命は定められていたのだ。
 そもそもインスタントレタリング自体も、それまでの「手書き文字」の伝統を駆逐したわけで、今度はその価値がパソコンによって消されようとしている。
 エアブラシにしても、かつては「ブラシ屋さん」と呼ばれたプロがいた。築地や新富町界隈のブラシ屋さんに仕事を依頼するたびに、その驚愕のテクニックに感動したものだ。が、いまはフォトショップなどを使えば、素人でも「美しいエアブラシ効果」がいとも簡単に出来る。まったく大変な時勢になったものだ。

 新たに台頭してきた技術の進化の裏返しとしての「販売終了」である。そういった流れの結果として、それは良く分かる。他の分野でも業界でも、日々革新は続いているわけだし。
 それでも、少しくらい面倒くさくても、レタリングに挑戦したり、あるいは、たとえエアブラシでなく鉛筆でもよいから「グラデーション」を手で書いてみる、そんな中に、人の持っている手の能力を呼び覚ますことも幾ばくかの価値があるのではないか?
 ま、そんなことをやっていたら日が暮れてしまう。いったん速まってしまった仕事のスピードに合わせるには、悠長なことは言ってられない。が、なにから何までショートカットとマウスのクリックで、すいすいと「出来上がって」しまって良いのかな?

 そんなこんなをうろうろ考えながら、カランダッシュ*のネオパステルの補充を買った。これはアナログ回帰へのはかない願望だろうか。でも、考えてみるとこのパステル・セットも同じカランダッシュの120色の色鉛筆セットも、実はこの数年なかなか減っていない。

*カランダッシュ:スイスの文具メーカー。色鉛筆やパステルなどの色は、それはそれは美しい。使うのがもったいないほど美しい。
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カズ−

パソコンは良くも悪くも世の中を一変させてしまいましたね。
パソコンが無いと仕事が出来ないなんて、27年前(私が
今の会社に入った頃には想像できませんでした。
見積書を和文タイプで打ってくれる女性がいましたから、、。
by カズ− (2008-06-25 20:41) 

クラシカルな某

 こんばんは。
   
 確かに、いまや使わなくなってしまった文具、いっぱいありそうです。
  "Vanco" ほかのテンプレートは今もデスクにしのばせています、オレンジやグリーンのです。デザインの仕事でなく、事務・業務のフローチャートを書くのにそれ用のテンプレート定規を使いつつ、もっと自由な表現を付加しようと思ってデザイン用テンプレートも買ったものです。デザイナーさんやエンジニアさんと違って、ふつうの面積のデスクで仕事しますから、大きなテンプレートは適当なところにカッターで直線の切れ目を入れてから折り曲げて2つとか4つに切り分けて使いました。
   
 話が脱線しますが・・・。   
 切り貼り書類の、その切り貼り境界線にはスコッチテープを貼って押さえるとコピーしたときに線が現われにくいとか、いまではもう無用のテクニックですね・・・「よしっ、原稿(コピー用の版下)完成!」と思ったら誤字・脱字を見つけて貼り直すなんてこともありました(苦笑)。今日ではもう、何でもワードやパワポそのほかで綺麗なものが一発で出来てしまいます。しかし、昔がちょっと懐かしくもあります。
by クラシカルな某 (2008-06-25 21:03) 

風

時代の流れ・・・・という言葉だけで終わらせたくないですねぇ。

そういえば、電気の世界はもっと変化が早く、昔はデザイン関係と
同じく、電子回路のパターン化をする際には、写真にするまでの
段階として、まず回路図を描き、実際に組んで試験して、巧く
いったなら今度はレタリング材料を買ってきて、部品の穴径に合った
丸いレタリングシールを貼り、必要なつなぎ線となるパターンを
黒い幅が何種類もあるテープで作ります。 電気の場合、とりあえず
接続ミスが無ければ大抵動作するのですが・・・・やはり「美しさ」を
求めるので、カーブの大きさ、流れ方・・・・・

などなどが全てPCだけで終わるんです。
基板の上と下との接続に誤差が無いかどうか貼り合せて・・・・・
乳白色ガラスの中には蛍光灯が点けられ、その光を裏から当てて
チェックした昔がまるで昨日のようです。
by 風 (2008-06-25 21:58) 

HEIJI

学校にも高性能なパソコンが導入されましたもんねー。
インレタやスクリーントーンってまだあったんですね、なんて思ったり。
昔使った道具とか、もうすでになくなってしまったものもあるんでしょうか。
・・・今度、ユザワヤへ見に行ってみようかな。

ノギスはなんで?と思いましたが、デザインの道具としてのノギスなんでしょうね・・・。


by HEIJI (2008-06-25 22:44) 

井上酒店

本当にそう思いますね。パソコンが進化し、ネットが普及して、物の存在価値が希薄になってますね。お店に足を運ばなくても、ネットで同じ物が買えるし、中にはディスカウトしてるから、送料足してもネットで買う方が安いなんておかしな事になってますからね。でも必ず存在価値はあるはずですし、お店側も存在価値をもっと見いだして行くべきだと思います。便利が全てではありません。やはり人の手のかかった物は、それなりに存在価値があるはずです。そう言う者は文化として残さないと、本当に、しょうもない世の中になってしまいます。なんとか専門店として、頑張っていって欲しいですね。
by 井上酒店 (2008-06-25 23:23) 

akipon

この前丸の内を歩いたら、伊東屋がありました。いろいろ進出しているんでしょうか。確かにいろいろなお店が増えて、昔ほどの存在感はなくなりましたが、安心感のあるお店だと思います。
by akipon (2008-06-26 01:07) 

こぎん

写植を切り貼りした時代です。級からポイントへ・・・そういう以降の時代をかじっていました・・・
PCでなんでも自分で出来るようになったけれど・・・ホントはその分忙しくなっったんじゃないか?と思うこともありました。

カメラ・・・がデジになったのは・・・へたっぴには嬉しいかな?
これからも進化しちゃうのでしょうね。どんな風にするのか、既についていけてない分野もあるし・・・もっとスローペースでお願いしたいんですが・・・。


by こぎん (2008-06-26 07:05) 

YASH

インスタントレタリングってもうないんですか。
うんと若い頃、ちょっと気取った文字を入れたいときはよく使いました。
カリグラフィのアルファベットを見つけたときは嬉しかったなぁ(笑)

手仕事、手に職、なんていう分野でも手はキーやマウスを動かすだけ、
ではもちろんないんでしょうけど、手が伝える感覚はやっぱり大切に
したいです。
by YASH (2008-06-26 23:52) 

e-g-g

◎ カズーさん
それを“打ってくれる”女性は、
たぶんその能力を活かしてPC時代に対応したのでしょうね。
でも、和文タイプの方は、どうなったんでしょうね〜
静かに消えていったのでしょうか?

◎ クラシカルな某さん
“Vanco”懐かしいですね〜
私の机の引き出しにも何枚か眠っています。
切り分けて使う?とは、、、
と思いましたが、たしかに大きいのもありましたね。
スコッチテープも重宝しました。
とくに「剥がせる」タイプが出たときは感激でした。
事務所の棚に、使うはずだったテープが
カートンのまま残ってます。

◎ 風さん
レタリングシールも、黒いテープも
たぶんレトラセットの製品ですよね?
あの会社、いまは何を商売にしているのでしょうか?

ライトテーブルも使わなくなって久しいですね。
写真はモニターで確認、図面のズレは画面を拡大して、、、
そういえば、昔、とあるハンバーガーチェーンのアップルパイの
製造工程を見学したことがあります。
ジャム状に煮上がったリンゴの実を大きなライトテーブルの上にひろげ
残った種を目視で見つけるんです。
あぁ、こういう使い方もあるんだ、と感心しました。

◎ HEIJI☆さん
ノギスは、グラフィックデザインではほとんど使いませんが、
プロダクトデザインの方では、いまでも必需品と思うんですよね。
これ、無くなるとけっこう困るのでは?

ユザワヤ、私もたまに行きますよ。
飽きずにいろんなものを眺めています。

◎ 井上酒店さん
どの分野でも、かつてモノには「人の手」の痕跡が
なにかしら着いていました。
今はきれいさっぱりクリアな状態で世に出るケースが多いですね。
でも、やはり人のすることですから、
いろんな痕跡は残したい・感じてもらいたいわけで、
その意味では、新たな表現の模索時代なのかもしれません。

◎ akiponさん
伊東屋、丸善、こういった安心感のある店って
少なくなったような気がします。
その店独自の品揃えもありますが、
「どこで買っても同じモノ」も増えて、
その点では存在感も弱まりますね。
かつては、カレンダーといえば伊東屋でしたけど、、、

◎ こぎんさん
そうですか〜、写植の切り貼り、、、
懐かしいなぁ、で、写研でした?
私は活字の仕事もしましたよ。
といっても、1970年代の前半、
活字は当時すでに「過去」の技でしたけれど、
ごくたまに書籍広告などで「活字」というのがあったんですね。
珍しくて活版屋さんを見学した記憶があります。

PC仕事になって、デザイナーは限りなくオペレーションに
振り回されることになりました。
ほんと若いデザイナー君達は大変だよな〜
と思いますね。

◎YASHさん
インスタントレタリング、販売終了ということは
これまではあったということですよね。
それ自体、ちょっと意外な感じもします。
ずいぶんとお世話になった製品なんですけど。

カリグラフィなど、繊細な文字は
転写するのにけっこう神経を使いましたね。

◎◎◎
みんさんから頂いたコメントを拝見していると、
今さらですが、パソコンの影響の大きさを感じますね。
分野は違えどその出現で仕事のやり方が変わり、
いくつもの仕事や専門職が消えました。
そのひとつひとつには、人の手と知恵の集積が
確かにあったわけです。
印刷などが典型的ですが、決して伝統工芸にならない仕事、
そのなかで培われた手仕事の意味や
そこに潜んでいたであろう人の知恵などに
ちょっと目を向けてみたいもの、とも思います。
ただ、こう急激に変化すると、そういったことを知ろうにも
そもそも現場自体がすでに消滅、ということも多々ですね。

◎ラナさん
◎カフェオランジュさん
◎一真さん

お立ち寄り、ありがとうございます。

by e-g-g (2008-06-27 23:45) 

e-g-g

◎ハイマンさん
nice、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-06-27 23:50) 

masa

エアーブラシ、スクリーントーン。。懐かしいです
学生時代は美術部。でもどれも高価で買えませんでした。
製図機もですか〜。道具を揃えるのも楽しみだったのに。。
鉛筆で洋服と手が汚れる事もCADのお陰で無くなっているんですよね〜
製図の早描きは得意だったのに。。必要ない技になってしまったようですね。。
パステルも好きな色だけ買い揃えてました。まだ大切に使っています。手が汚れる「職人」の感覚。。好きなんだけどな〜
消えていくのは寂しいですね。。
by masa (2008-06-28 21:34) 

響

便利な反面、失うものも出てきますね。
スピードを求めていないのなら是非、自分の手で何かを描いてみたいものです。
エアーブラシで書けるなんて羨ましい技術ですよね。
無くなってほしくないです。
by (2008-06-29 01:29) 

e-g-g

◎masaさん
製図機もパステルも、ある意味でハイテクの結晶と思います。
そういった道具や素材をじかに手で扱えるのは
考えてみれば幸せなことだったのかもしれません。
精度もスピードも、CADにはとても敵いませんが、
それを使うプロセスで得るものも大きかった、と思いますね。
ビットの時代になって、人は何を掴むのでしょう?

◎響さん
失うものは多かったのではないでしょうか。
でも、「昔は良かった」という懐古趣味、
ここには陥りたくないものですね。

エアーブラシの達人、
かつてはとんでもなく上手い人がたくさんいましたよ。
by e-g-g (2008-06-30 00:24) 

e-g-g

◎Krauseさん

◎Nicoli♪さん

◎sanjinsaiさん

◎micyuさん

◎POPさん

◎フェイリンさん

nice、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-06-30 00:27) 

e-g-g

◎masugiさん

お立ち寄り、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-07-04 16:31) 

e-g-g

◎甘党大王さん

nice、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-07-11 18:22) 

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