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雪の野山は魅力的だけど [山・里・田園]

 恐羅漢山とは、またなんとも怖そうな名である。5日に無
事に見つかったスノーボーダーの人たちは、たぶん今頃、そ
の「恐れ」がほんとうに胸に迫っていることだろう。

 私はクロスカントリーのスキーをやる。奥日光、八ヶ岳、
最近では群馬の玉原あたりに出かける。
 八ヶ岳は、ピラタスロープウェイの頂上駅から麦草峠まで
の林間コース。晴れた日に、中央、北アルプスを眺めながら
滑る(歩く)のはまことに気持ちがよい。
 奥日光は戦場ヶ原の奥につくられたクロスカントリー専用
のコース。レースもできる5キロコースから、最長はたしか
15キロくらいまでのコースがあったはず。滑った後のアスト
リアホテルの露天風呂が楽しみ。

 都心から近く、そのわりに雪が多い玉原はいちばん通って
いる。条件がよい日にはダイヤモンドダストも見られる。気
心の知れたペンションも魅力のひとつだ。ほんとうは裏磐梯
や、もっと脚を延ばして北海道へも行ってみたいが、いまだ
実現していない。

 さて、この3箇所のエリア。クロスカントリースキーで歩
くのは、基本的に「山の中」である。要するに自己責任の領
域。奥日光はコースがあるとはいっても、いわゆるスキー場
ではない。ここでは先に滑った人の「踏み跡」が頼り。八ヶ
岳など、地元の山小屋の人たちが付けた赤い目印だけが頼り
である。ゲレンデでも滑るとはいうものの、玉原もスキー場
を一歩出れば「山の中」。

 たとえば玉原。まず、スキー場のゲレンデで足慣らしをす
る。圧雪されたゲレンデはほんとうに滑りやすい。腕が上が
ったか?と錯覚する。体がほぐれたところで、いざスキー場
のロープを越えて「野」に向かう。ここから先、遭難したら
全責任は自分にあるのだぞ!と言い聞かせながら。もちろん、
天候の悪いときは絶対に山には入らない。たとえ無雪期にも
歩き、地形がほとんど頭に入っていても、いったん吹雪かれ
ればどうなるかは自明の理。それと、いつも世話になるペン
ションのオーナーも、神経質なくらい天候にはうるさい。

 それでも晴れた日に、それも前夜に新雪でも降っていれば
最高だが、そんな雪の上、だれの足跡もないブナ林の中を滑
ったり歩いたりするのは楽しい。ゲレンデから遠ざかるにつ
れてスキー場のBGMも聞こえなくなる。スッスと雪を押す
板の音、耳元を過ぎる風の音、ときおり舞う雪煙の音、見通
しの良い林を飛ぶ鳥の羽音。これは、もう至福の音世界であ
る。

 それまで左方向へなだらかな円弧を描くように進んでいた
のを、ある地点でほぼ直角に左へ曲がる。玉原の周囲の山は
そう険しくはない。雪がないときはハイキングコースのよう
ななだらかさだ。このターニングポイントも、そんななだら
かな尾根の頂点にある。そこに着くまでに、同じような格好
の尾根をいくつか越えるので、ときどき「もう着いた?」と
間違える。あっ!あの目印の倒木がないから、まだ先だ、な
どと言いながら滑る。
 晴れていれば、こんな勘違いをしてもどうということはな
い。次の尾根がポイントだ、これで済む。しかし、いったん
吹雪いてホワイトアウトになったらどうだろう?私は、この
場所でそんな状況に遭遇しても方向感覚を失わない自信はま
ったく無い。

 かつて、このポイントをどういうわけか新潟県側へ下って
しまった遭難事故があったという。こんなところで迷うはず
がない!あんな落ち込んだ沢へ降りて行くはずがない!と、
晴れていれば素人にも分かる。しかし、明るく晴れ渡ったブ
ナ林に迷い道の罠はしっかりと潜んでいる。
 仮にここで目隠しをして、グルッと三回もまわれば、もう
右も左も分からない。たとえば予想外に吹雪かれ、それも日
没が間近に迫るような時間だとする。いとも簡単にパニック
に陥ることは容易に想像できる。

 事故のあった日の直前に、山スキーで恐羅漢山を滑った人
のビデオ映像がニュースで流れた。軽そうな新雪が膝くらい
まで積もっていた。山スキーや、スノーシューならいたって
快適だろう。実際に、降り積もった雪に膝まで埋もれながら
音もなく滑る感覚は、これはもう夢のような世界である。
 登りの可能な山スキー、クロスカントリースキーやスノー
シューなら、少しくらい下りすぎてもさほど心配はない。
えっちらおっちら登ればよいのだから。やはり、あれだけの
雪の中、下ることしかできないボードで入ってしまったこと
が事故の最大の原因だろう。

 静かな森に降り積もった新雪、これはほんとうに魅力的だ。
そこに足を踏み入れてみたくなるのは素直な感情だ。ただ、
その気持ちを支える装備と注意力だけは無くさないでいたい。
これはほんとうに「言うは易し」なのだけれど。

*いちどだけ奥日光の戦場ヶ原で地吹雪にあったことがある。
 普段なら、のんびり滑っても30分もかからないような平坦
 なコース。夕闇が近づく時間帯、寒さと視界の悪さは平常
 心を一挙に失わせるほどの威力があった。雪は美しいけれ
 ど、怖いものでもある。


nice!(8)  コメント(6) 

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コメント 6

響

やはり雪山の怖さを親身に伝える人が身近にいなかったのが
あの事故の原因にもなってるかもしれないですね。
そうはいっても雪山の達人など身近にそうはいないので
やはり個人個人が山の危険性や有事の際どういったことになるか
肝に銘じておく必要があると思います。
その上で素晴らしい自然を満喫できれば最高ですね。
by (2008-02-09 09:41) 

いろは

こんにちは^^
雪山は怖いとよく聞いています。
でも誰も歩いていない所を行って見たくなるのでしょうね(^_^;)
e-g-gさんもお気をつけて楽しんで下さいね♪
by いろは (2008-02-10 17:07) 

e-g-g

◎響さん
迷ったり天候が悪くなければ、
きっと良いところなのでしょうね。

せっかく取れた休みだから、
せっかくここまで来たのだから、
と、つい無理をしがちな状況、
そんなこともあったのかもしれませんね。

◎いろはさん
邪魔なクマ笹も雪の下、
冬の明るくて見通しの良い山の中は、
他のシーズンより動きやすいのですね。
もちろん風もなく晴れていればの話です。

雪の上では、風の吹き方、雲の厚みや動き、
そんなことにすごく敏感になります。
その緊張感が心地よいと思えるところで
とどめておきたいもの、と思います。
冬であろうと夏であろうと、
街を出て、一歩でも山へ分け入るというのは、
やはり大きなリスクを背負うわけですし。

◎カフェオランジュさん

◎きぃ*さん

◎YASHさん

いつも、ありがとうございます。
by e-g-g (2008-02-11 01:01) 

HEIJI

何度も行ってる場所だと、山の怖さには鈍感になりますね。
真っ白な新雪を見たら余計にそう思うかも。
雪山に限らないですけど、相手が自然だと謙虚にならないといけないですね。
by HEIJI (2008-02-11 14:05) 

daland

こんばんは。
ずいぶん前になります。
仕事で長野の南佐久で、快晴の朝にダイヤモンドダストを初めて見ました。
幻想的な世界にうっとりしたことを今でも覚えています。
冬の山、幻想の世界と現実の危険な世界が表裏一体なんでしょうか?
by daland (2008-02-11 20:17) 

e-g-g

◎HEIJI☆さん
たしかに、
良く知っている場所の方が気が緩むかもしれません。
それに新雪の誘惑はいたって強い、、、
油断の入り込む隙はいくらでもありますね。
気を付けましょう。

◎dalandさん
ダイヤモンドダストは、
私もそう何度も見たわけではありません。
その美しさをもういちど見たい!という思いが、
つい危険の一線を越えてしまう。

遭難にいたってしまうのは、やはり拙いですが、
そのギリギリのところで出会えるものも
あるんですよね。
コマッタことです。
by e-g-g (2008-02-11 23:49) 

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